藤原さくら、mabanuaとの融合で手にしたクロスオーバーなポップミュージック EP『red』評

藤原さくら、EP『red』評

 シンガーソングライターの藤原さくらが、6曲入りのEP『red』をリリースする。本作は、今年6月にリリースされた同じく6曲入りのEP『green』の続編というべき内容で、プロデューサーも引き続きドラマー/プロデューサーのmabanua。これまで藤原は、Curly Giraffeこと高桑圭やSPECIAL OTHERSのYAGI & RYOTA、それこそmabanuaも在籍するバンド、Ovallの面々など、アルバムごとに複数のプロデューサーを迎えていたが、『green』と『red』はアルバム1枚を通して1人のプロデューサーを起用する形になり、そこに抜擢されたのがmabanuaというわけである。

 藤原がmabanuaとタッグを組むのは『green』が初めてというわけではなく、彼女の1stアルバム『good morning』でも2曲を一緒に作っている(「I wanna go out」「Give me a break」)。ブラックミュージックをルーツに持ちながらも様々な音楽スタイルを取り込み、ジャンルにとらわれない楽曲をこれまでも数多く作り出してきたmabanuaだが、自身のソロ名義はもちろん、昨年末に再始動したOvallでの活動、米津玄師やSKY-HI、LUCKY TAPES、RHYMESTERといったアーティストのプロデュースなど、そのワークスは枚挙に暇がない。ドラムだけでなく様々な楽器を操るマルチプレイヤーでもあり、ビートメーカーでもある彼と藤原の相性は抜群。ブルースやフォーク、カントリーなどの要素を散りばめた藤原のメロディセンスを巧みに引き出しつつ、mabanuaの持つブラックミュージックのエッセンスを加えたアレンジは、「I wanna go out」や「Give me a break」で構築した世界観の延長線上にあるものといえるだろう。かねてから藤原は、自分のソングライティングに大きな影響を与えた人物としてポール・マッカートニーの名前を挙げているが、そんな彼女のポップセンスと、mabanuaのマニアックなサウンドプロダクションも、絶妙なバランスで混じり合っているのだ。

 最近のインタビューなどによれば、今回mabanuaはデモ段階からアルバム制作に加わったという。藤原の作ったデモを聞き、それについて意見を述べた後、最終的にスタッフを含めて曲を絞り込む。それを藤原のリクエストと共に持ち帰ったmabanuaが、アレンジの「たたき台」を作り、そこから先は藤原とmabanua、そしてディレクターの3人で詰めていくというやり方だ。骨子のメロディは藤原が考えたものだが、コード進行や構成などでmabanuaがアレンジを加えた部分もある。これまでの藤原の楽曲は、一筆書きのようなものが多く、時にはフックとなるメロディが隠れてしまいがちだったが、mabanuaはそれを丁寧に拾い出し、引き立たせるようなアレンジを加えている。『green』も『red』も、サウンドの質感は温かみがある一方、構成やメロディなどシャープな印象があるのはそうしたアレンジ手腕によるものなのかも知れない。

 冒頭に述べたとおり、『red』は『green』の延長線上にある作品だが、アルバムの色合いは微妙に変化している。『green』では、フォーキーでブルージーな藤原の要素に、mabanuaのブラックミュージックのエッセンスを掛け合わせたら一体どうなるのか? ということをかなり“意識的に”試みている印象がある。例えば「Time Flies」では、フィル・スペクター風のウォール・オブ・サウンドにコミカルなサンプリングフレーズを挿入したり、「Sunny Day」では、70年代のソウル〜レアグルーヴを思わせるリズムを加えたり。「グルグル」は「I wanna go out」同様、藤原の“マッカートニー愛”が炸裂したマイナーなフォークチューンだが、そこにDJ Mitsu The Beats(GAGLE)のスクラッチを混ぜ合わせる。つまり、藤原らしさとmabanuaらしさが、完全には融合せずに寄り添いあったり、時にぶつかり合ったりしているところがユニークだったのだ。

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