アイドルの“株式会社化”はなぜ進む? 劇場版ゴキゲン帝国 白幡いちほが取締役会長になった理由

アイドルの“株式会社化”はなぜ進む?

 最近、中堅女子アイドルの「卒業」が頻繁に起きている。ベイビーレイズJAPAN、PASSPO☆、GEM、バニラビーンズ、ベボガ!などアイドルファンであれば名前を必ず知っているグループが、解散・活動休止に至っている。他方で、乃木坂46、欅坂46に代表される女子アイドルグループは、多くの女性や若年層を中心に人気が沸騰してもいる。そして相変わらず地下現場といわれる小規模のライブハウスでのアイドルたちの活動は個性に満ちている。

 ただ中堅アイドルがごっそり抜けてしまうと、数十名規模の会場から数百名、千名超、そしてやがて武道館というアイドルの「成長物語(ロールモデル)」が消滅してしまうかもしれない。超人気のグループとマイナーな人気の女子アイドルの二極分化がすすんでいき、中間をブリッジするアイドルが不在になる。武道館でのライブを経験し、またはその可能性を持っていたグループがいなくなるのは、アイドルを経済学的な観点からみたときでも問題だ。いわば選択の多様性がなくなるということを意味する。

 ところでこの武道館ライブを2021年に実現すると公言しているアイドルがいる。この元気のいいグループの名前は、劇場版ゴキゲン帝国だ。通称「ゴキ帝」。12月に新宿BLAZE(定員800名)でワンマンを開催するが、まだ一般的にはそれほど知られてはいないだろう。もちろんアイドル業界に詳しければ、ライブを観たことがなくても動画やSNSなどで必ずその名前に出会うグループでもある。新宿BLAZEの前には、キャパが550名の代官山UNITで4thワンマンライブを行っている。つまり徐々に収容人数の大きいホールを埋めていき、さらに高み(武道館:収容人員8,000人超)を目指している。成長型のロールモデルを採用しているアイドルたちである。

 ゴキ帝のリーダーの白幡いちほ氏(以下敬称略)にインタビューする機会に恵まれた。白幡にインタビューした理由は、実は最近目立つようになってきたアイドルの個人事業主化、株式会社化、またはセルフプロデュースの流れをまとめるためだった。特にソロアイドルでこの傾向が強くみられるように思える。白幡は、今年の9月から株式会社GOKIGEN JAPANのアイドル界初の取締役会長となっていた。

 例えば、眉村ちあきは、魅力的な弾き語りのソロアイドルだが、彼女は株式会社会社じゃないもん代表取締役社長を務めている。また1,000人規模のライブを単独で成功させ、手焼きのCD-Rを全国流通させて売上でも健闘した実績のある里咲りさは、HAWHA MUSIC RECORDSの社長でもある。さらにさまざまなアイドルやタレント、DJを組み合わせた対バン構築で才覚を発揮するエレポップシンガーの武井麻里子も忘れてはいけない存在だろう。この他にも事務所に所属していながら、楽曲の制作、グッズの企画などを中心にしたセルフプロデュースを手掛けるアイドルたちは、その関与の在り方に程度の差があるものの無数に存在している。

 筆者はしばしば“個人事業主”である武井の企画する対バンに出かけることがある。その企画力の切れ具合も素晴らしいが、やはり彼女の意志の強さを感じさせるライブと物販での語りに注目している。この意志の強さは、並みのアイドルを凌駕するものだが、里咲や眉村にも通底している。白幡と面したときにもその眼力から感じたのは、一筋縄ではいかない意志の強さだった。

 劇場版ゴキゲン帝国のライブ現場を取材したが、若い女性層がコアなファンに多いなという印象をうけた。マナーが守られるのと同時に、沸きたつ現場は多くのファンに心地よさを与えるだろう。白幡によれば小さいお子さんを伴った家族連れも見に来るという。確かに劇場版ゴキゲン帝国のライブ会場でうけた印象は、ももいろクローバーZの初期のころに似ていた。白幡たちゴキ帝の目標とする武道館公演に到達した際には、現在のももクロと同じように女性層がかなりの勢力になっているに違いない。性別や年齢を問わないファン層(帝国民)の幅広さは、ゴキ帝の強さだ。実際に初見ともいえる筆者もその帝国民の中にすんなりと加わることができた間口の広さがある。

 このアイドルとしての間口の広さは、彼女たちの楽曲のもつメッセージ性にも原因があるかもしれない。「人の金で焼肉食べたい」や「I NEET YOU」などは、人を幸せにする仕組みをストレートに表現している。前者はフリーランチこそがどんな状況の人間にも喜びであることを伝えるだろう。後者は「嫌なことは全部やめる」ことの重要性を高らかに歌ったものだ。もちろん現実はフリーランチもニートの積極的価値も徹底的に排除してしまうかもしれない。だが、このユートピア的な状況を、アイドルたちが歌うことで確実に多くの人たちは救われる、激励される。それがまさにアイドルの力なのだ。

【MV】劇場版ゴキゲン帝国『I NEET YOU』

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