平井堅の“失恋ソング”はなぜ愛され続けるのか? 「half of me」と歴代の楽曲から考える

平井堅の“失恋ソング”が愛され続ける理由

 平井堅の45枚目のシングル『half of me』(11月28日発売)が、絶賛先行配信中だ。表題曲は、現在放送中の木曜劇場『黄昏流星群~人生折り返し、恋をした~』(フジテレビ系/以下、『黄昏流星群』)の主題歌。だが、同曲は『黄昏流星群』のために制作されたわけではない。平井堅のコンセプト・アコースティックライブ『Ken’s Bar』のテーマソング「even if」に登場するカップルの10年後の未来を歌う失恋ソングである。『Ken’s Bar』で2009年7月に初披露されてから、約9年間ライブに訪れるファンのみに届けられてきた「half of me」だが、失恋の心を優しく癒すような歌声と感傷的な歌詞で未発表ながらも長年愛され続けてきた。

平井 堅 「half of me」MV(Short Ver.)

 「even if」が2000年12月にシングルとして発売されてから「half of me」がリリースされる今日まで、平井堅は多くの失恋ソングを世に送り出している。たとえば2004年に大ヒットした「瞳をとじて」。映画『世界の中心で、愛をさけぶ』の主題歌として使用された同曲は、編曲を「half of me」同様に亀田誠治が務めている。テーマは“喪失”。冒頭の〈朝目覚める度に 君の抜け殻が横にいる〉〈苦笑いをやめて 重いカーテンを開けよう〉という歌詞からすでに喪失感が溢れている。失恋した際、朝起きたときに最も空虚感を味わう人は少なくないはず。目覚めた瞬間は、夢の中と現実の境にいるため、君が隣にいない今を一瞬だけ忘れられる。程なくして〈ぬくもりを感じた いつもの背中が冷たい〉ことに気づき、一気に現実に引き戻されることで、その差に打ちのめされるのだ。朝起きてカーテンを開けるという誰しもが日々の生活で行なっている動作と、〈たとえ季節が 僕の心を 置き去りにしても〉〈あの日 見てた星空 願いかけて 二人探した光は〉などといったロマンチックな歌詞のバランスが絶妙で、まさに瞳をとじながら平井堅の歌声を堪能すれば、物語の描写がリアルに浮かぶ。

 ほかにも映画『ゴースト もういちど抱きしめたい』の主題歌「アイシテル」(2010年)や日曜劇場『JIN-仁-』(TBS系)の主題歌「いとしき日々よ」(20011年)、ドラマ『Wの悲劇』(テレビ朝日系)の主題歌「告白」(2012年)など、失恋や叶わぬ恋をテーマにした名曲を生み出し続けてきている。では、なぜ平井堅が歌う切ない恋の歌は、多くのリスナーの心を掴んで離さないのだろうか。その理由の一つに、日常の延長線上にあるドラマチックな歌詞があげられるように思う。

 先述した「half of me」は、平井堅が「生きると言う事は空白の半分を、欠損の半分を探す旅なのかもしれない。そんな思いを書きました」と語っているように、“失われた半分”をテーマに歌詞が綴られている。大好きな彼女と同じ時間を共有し、一緒に生きてきた中で、10年前より彼女を深く愛してしまった僕。彼女と二人で一つの生活を送るのが〈あたりまえ〉となっていた日々だったが、もろく崩れ去ったことで、まるで自分の半分を引きちぎられたように痛い。決して一つにはなれないことを痛感するが、それでも僕は失われた半分を探し続ける、といった内容。

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