湯木慧が表現した“音楽の蘇生” 気鋭のクリエイターとリアレンジした最新作より5曲を聞く

湯木慧が表現した音楽の蘇生

 その声に秘められた無限大のパワー、独自のフィルターを通して構築されるシアトリカルな音世界の凄み。20歳のシンガーソングライター、湯木慧(ゆきあきら)が10月20日、21日に開催されたワンマン個展ライブ『残骸の呼吸展』にて、2019年にビクターエンタテインメント内のレーベル<スピードスターレコーズ>からメジャーデビューすることを発表した。

 これまで、音楽、絵、言葉、ペイント、装飾などで表現し、CDやライブ、ツイキャス(動画配信)などを通じて独特なる世界観を伝えてきた彼女。10月17日にリリースしたインディーズ時代最後のアルバム作品『蘇生』は、16歳から18歳の頃に発表した自主制作CDや、ライブのみで歌っていたナンバーを、アレンジを一新して、または弾き語りでリメイクされている。

 “作品を創作することは人生そのもの”と語る湯木慧。アルバムタイトルの『蘇生』、そして酸素マスクをした衝撃的なビジュアルは、“廃盤したCDからの音楽の蘇生でもあり、失いかけていた感情の蘇生でもあり、湯木慧の蘇生でもある”という本作のコンセプトを表したものだ。

 最新作『蘇生』での注目は、湯木慧が敬愛する気鋭の音楽クリエイターとの“リアレンジ”をテーマとしたコラボレーション。リミックスでもリプロダクションでもプロデュースでもなく、タイトル表記に“reborn by”とクリエイターとの関係性を伝え、作品タイトルが全てカタカナ表記へと変わった、言わばオリジナル作品第二形態の誕生だ。気鋭アーティスト/トラックメーカーの起用における臭覚の鋭さは、次世代シーンを占う目利きの良さをうかがえる。こうして新たな生命を得た音源は、手で掴み持ち上げても潰れない生命力の強い生卵のように、より濃厚なパワーを作品に与えていく。

 モノづくりを生業とするハタチの女の子の視点で表現された驚異の音世界。2018年という時代を暴く、その本質的な作品力が誇る鋭さにあなたは驚くことだろう。キーとなる、新規に編曲を担当した注目の5人の音楽クリエイターを軸に主要曲を解説していきたい。

reborn by Yamato Kasai(from Mili):4曲目「カゲ」 

 世界基準の音楽制作集団Miliのメンバー、鬼才Yamato Kasaiによるクラシカルな新アレンジに着目したい。ミュージックビデオも制作された「カゲ」では、ピアノを軸とした叙情的で切迫した心の葛藤を描く。〈その笑顔に嘘はないのかい?〉というフレーズが誰しもの過去の体験を想起させ、フラッシュバックするかのように思い出が脳裏によぎる。現在進行形の青春の影を表現した名曲だ。なお、ミュージックビデオの構想は湯木慧本人が手がけている。

「カゲ reborn by Yamato Kasai(from Mili)」湯木慧MV

reborn by Sasanomaly:3曲目「キオク」 

 ボカロP、ねこぼーろとして発表した「戯言スピーカー」が、ぼくのりりっくのぼうよみやDAOKOにカバーされたことでも知られている、エレクトロニカを昇華したシンガーソングライター、Sasanomaly。自身で歌唱したオリジナル作品『game of life』など、傑作が続く逸材だ。本作「キオク」では、歯車が回転するかのような印象的なサウンド感。忘れたくない思い出や経験を心の穴と表現し、砕けていく大切な記憶を忘れたくない、埋めたくないと願う。

reborn by Picon:2曲目「ニンゲンサマ」 

 〈わっはっは、わっはっは 笑い声あげて〉とはじまるインパクト強い歌い出し。本作で一番キャッチーなフックを感じたナンバー。洒落た、夏祭りのような繊細な音使いのアレンジメントが解き放つポップセンス。Piconは、ボカロPとして活躍し18作目の「ガランド」で初のニコニコ動画殿堂入りを果たした新しい才能。自身で歌唱する「生活があった」も好調な新世代アーティスト。湯木慧との相性はとても素晴らしい。彼女のアレンジャー起用の目利きの良さにも驚かされた。

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