amazarashi、『新言語秩序』の物語の行方は? 『リビングデッド』収録曲から伝わること

amazarashi、小説&シングルを考察

 自身にとって初の日本武道館公演『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』に向けて、専用アプリ『新言語秩序』などを通じて様々な施策を展開してきたamazarashi。彼らがその武道館公演のために書き下ろした小説の4章が公開され、同じく公演のために書き下ろされた3曲を収録した最新シングル『リビングデッド』が11月7日にリリースされた。

 これまでアプリ『新言語秩序』で公開されてきた小説の1章~3章では、言葉を検閲する集団「新言語秩序」と、その検閲に抗う「言葉ゾンビ」との対立を通して、amazarashiがキャリアを通じて信じてきた“言葉の力”を主題にした、とあるディストピアでの物語が描かれていた。そして、その小説のテーマとリンクするように、『リビングデッド』の収録曲も、音楽性は大きく違うものの、どれもが“言葉”をテーマにした楽曲になっている。

amazarashi 『リビングデッド(検閲済み)』Music Video | 新言語秩序 テンプレート言語矯正プログラム

 まず、タイトル曲の「リビングデッド」は、以前コラムにも書いた通り、amazarashiが言葉の検閲に抗う存在=「言葉ゾンビ」側の一員として、検閲に抵抗する様子を描いたと思しき楽曲。インダストリアルな雰囲気のビートなどで『新言語秩序』の世界観を見事に表現しつつ、その上で高らかに戦いの狼煙を上げるような、強烈なエネルギーが漲る楽曲になっている。先立って公開された検閲済みのMVと、アプリで検閲を解除することで閲覧できる本来のMVを観ても分かるように、この曲は彼らが“言葉を取り戻す決意”を歌う楽曲だ。

 一方、2曲目「月が綺麗」は、たおやかなギターや優しげな秋田ひろむの歌声、そして〈僕らの距離を埋めたのは/きっと言葉だった〉というフレーズが印象的な楽曲。小説で描かれるディストピアとは大幅に雰囲気が異なる、日常の中での小さな幸せや温かみを見つめるようなものになっている。とはいえ、同時にただ温かいだけの曲にはならないのがamazarashi。〈人生において苦楽は/惑星における衛星のよう〉という歌詞が、じわりと胸を締め付ける。この曲は言葉の力を噛みしめるような、“言葉への賛歌”とも言える楽曲だ。

 そして3曲目に収録された「独白(検閲済み)」は、amazarashiらしいオルタナティブなギターロックを基調にしつつも、同時にボーカルはほぼ検閲され、何を歌っているのか全く読み取れない実験的な楽曲。ところどころに小説の世界観に通じる言葉が挿入され、その真意が伝わらないからこそ、なおさら物語への想像を掻き立てるものになっている。検閲されて言葉が奪われる感覚がそのまま音楽で表現された、“言葉を奪われることの象徴”と言える楽曲だ。この3曲はそれぞれ言葉をテーマに据えつつも、そのどれもがまったく異なるサウンド/ベクトルを持っている。そのため、3曲をすべて聴くことで、アプリなどを通じて徐々に明らかになってきた『新言語秩序』の世界観が、大きく広がっていくような感覚がある。

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