橋本徹が語る、スガ シカオとFree Soulの共通点 「どちらもある種オルタナティブな存在だった」

橋本徹が語る、スガ シカオの魅力

 スガ シカオのデビューから現在に至る全キャリアの中から、『Free Soul』シリーズの監修で知られる橋本徹(SUBURBIA)が全35曲を選曲したコンピレーション『フリー・ソウル・スガ シカオ』が、11月28日にリリースされた。ソウル/ファンクをベースに、洋楽のエッセンスを日本ならではのポップミュージックに昇華したスガ シカオの音楽性を、洋楽・邦楽のカタログからヒット曲や隠れた名曲を独自のグルーヴィー&メロウな視点で選曲してきた橋本徹は、どのように捉えているのか? 『フリー・ソウル・スガ シカオ』の狙いはもちろん、スガ シカオの音楽の魅力や選曲のポイントまで、橋本徹本人に語ってもらった。(編集部)

いいなと思ったきっかけは「黄金の月」

ーー今回『フリー・ソウル・スガ シカオ』がリリースされます。まずはFree Soulについて、橋本さんから簡単に紹介、説明をしてください。

橋本:僕がまだ20代だった90年代前半、音楽を好きになっていろいろと聴いていく中で、リアルタイムで人気を集めていたUKソウルやアシッドジャズと呼応するような形で、70年代ソウル周辺のグルーヴィーだったりメロウだったりするようなものにどんどん惹かれていったんですね。でも、当時の日本の音楽ジャーナリズムは黒人音楽の評価に関して、自分と違った物差しを持っていたというか、権威的な決めつけを強く感じることがありました。その一方で僕たちと同世代の音楽仲間や世界を見渡したときに、自分たちが好きな音楽が魅力的なものとして聴かれていくはずだ、そうなっていくべきだという確信があって、1994年春にクラブでのDJパーティーとディスクガイド、そしてコンピレーションCDという三位一体の形でその魅力をプレゼンテーションし、たくさんのリスナーと音楽の歓びを分かち合っていきたいという気持ちで始めたのがFree Soulです。

ーーコンピレーションもこれまでに120タイトル以上出ていて、来年で25周年を迎えます。

橋本:そうですね。ある時期からは日本のアーティストで、僕の好きなソウルミュージック周辺、ジャズとかファンクとかブラジル音楽に影響を受けたアーティストにフォーカスするコンピレーションも制作するようになって、その最新のリリースがこの『フリー・ソウル・スガ シカオ』になります。

ーーでは、スガさんの話に移りたいと思います。橋本さんが最初にスガさんの音楽を聴いたのはいつですか? また、そのときの印象はどのようなものでしたか?

橋本:1994年の春にFree Soulのムーブメントが始まって、96年の春から僕はタワーレコードのフリーマガジン『bounce』の編集長を務めることになるんですね。当時の事務所の方だったと思うんですけど、スガさんのインディー盤を強くプロモーションされて、「文章も面白い人なんで『bounce』で連載コラムをできませんか?」というアプローチを受けたのが最初の記憶です。で、衝撃だったというか、いいなと思ったきっかけはやっぱり97年のメジャーデビュー曲「黄金の月」を聴いたときです。もちろんJ-POPとしても素晴らしいと思いましたが、僕の好きなスライ&ザ・ファミリー・ストーンに代表されるような70年代のソウルやファンクの影響を日本語のポップスに昇華したものとして、とてもインパクトを受けて。『bounce』の編集長は99年までやるんですけど、1stアルバム『Clover』、2ndアルバム『FAMILY』、3rdアルバム『Sweet』あたりまではとても強く印象に残ってます。『bounce』では毎年、年末に「OPUS OF THE YEAR」という1年間を振り返るベスト企画をやるんですが、必ず彼のアルバムはそこにエントリーしていました。

ーー僕も「黄金の月」、さらに橋本さんが挙げた3枚はヘビーローテーションしていましたね。

橋本:アナログ盤のリリースがあったわけではないので、DJの現場でかけたりしたことはないんですけど、Free Soulとの関わりという意味でも、「黄金の月」との出会いは大きかったなと思います。当時の日本のアーティスト、渋谷系なんて言われていた人たちも含めて、70年代のソウルミュージックの影響を受けたグルーヴィーな音楽はなくもなかったんですが、あそこまでスライ&ザ・ファミリー・ストーンへの憧憬を血肉化したような音楽は、「黄金の月」以外だとオリジナル・ラブが思い浮かぶくらいで、自分の中では抜けた存在だったというのはあります。『bounce』をやっている間は、スガさん本人が毎月3枚好きな音楽を紹介する連載コラムを続けてもらっていましたね。あとはやっぱり、90年代ってことでいうと「夜空ノムコウ」が出たとき。SMAPの音楽はすごくメジャーなフィールドの中で、 Free Soulのムーブメントと呼応するような音楽性を持っていて、特にアルバム『SMAP 007 ~Gold Singer』『SMAP 008 TACOMAX』『SMAP 009』あたりは、入稿作業が近づくとよく編集部でも流しっぱなしになっていたりして。仕事の能率が上がるみたいなんですよ(笑)。

ーー「がんばりましょう」は、Free Soulの代表曲のひとつと言っていいナイトフライトの「You Are」をアダプトしてるんですよね。最初に「がんばりましょう」を聴いたとき、「SMAPカッコイイなぁ!」と思いました。

橋本:「しようよ」や「胸さわぎを頼むよ」なんか特に好きで。そういう中で「夜空ノムコウ」が出たときの、20世紀が終わっていくような心象に包まれた街とか時代の空気感と、あの曲のメロウネスが、歌詞通り〈ぼくの心のやらかい場所〉にフィットしたのをとても覚えていて、それでさらにスガ シカオという人の存在感が増していったように思います。

“スガ シカオ・ナイト”でDJをするように

ーー「夜空ノムコウ」では、スガさんは歌詞を提供しているんですよね。では、そこから話を『フリー・ソウル・スガ シカオ』に持っていきたいんですけど、このコンピレーションを編むにあたっての経緯はどのようなものでしたか?

橋本:これはね、オーガスタの発案を受けてユニバーサルから電話がかかってきて、「橋本さん、スガ シカオでFree Soulってどうですか?」って聞かれたんですね。担当ディレクターの中ではスガさんは売れてるアーティストだし、TVにも出ているメジャーフィールドでやっている人なので、僕がどういう風に思ってるのかを知りたいところもあったと思うんですけど、即答で「いいですね!」って答えました。それはやっぱり「黄金の月」や「夜空ノムコウ」の体験が忘れられないものとして強くあったり、最初の3枚のアルバムは日本の音楽の中ではとても自分的に好みのものという印象があったので。で、本人の方にも聞いてみますってことで、すぐにOKになって。

ーー狙いやコンセプト的にはどんな依頼だったんでしょうか?

橋本:企画の段階で言われたのは、レーベルを越えたオールタイムベストを、ってことでした。20年以上に及ぶ今までのキャリアを総括し、なおかつFree Soulならではの感覚が浮かび上がれば、というお話だったので、そのあたりも惹かれましたね。もちろん90sだけで組んだりすることも可能は可能だったのかもしれないけど、やっぱり現在進行形のアーティストなので、ビクターから最近リリースされたものまで含めて、300曲近い全ての楽曲を聴き直して。で、その中から50数曲セレクトする可能性のあるものをメモっておいて、あとは本当にライナーノーツのコメントでも書きましたけど、ひと筆描きのように、“スガ シカオ・ナイト”でDJをするように160分、2枚組の起承転結のあるストーリーを構成することができたかなと思ってます。

ーー先ほど、「黄金の月」が橋本さんの中で特別な一曲だという話をしましたが、他にも思い入れのある曲があったら教えてください。

橋本:「黄金の月」に関しては、スライ的なグルーヴ感が好きだったと同時に、歌詞もすごく印象深かったんですね。90年代の渋谷はレコードが世界一集まっていて、ある種の躁的な浮かれた熱気みたいなものがあったんだけど、そういうところとは一線を画すというか。最後に〈黄金の月などなくても〉ってあるでしょ? 当時のJ-POPの歌詞はもうちょっとポジティブだったんだけれど、その陰というか影の部分、〈ぼくらが二度と 純粋を手に入れられなくても〉とか、そういうフレーズがあの音楽に乗ってくるところがとても個性的で彼らしく響きました。そういう引っかかりに加えて、音楽性という意味でFree Soulのイベントでかけてた曲とかコンピレーションCDに入れてた曲と共振するようなテイストということで、今回のディスク1の1曲目は「黄金の月」ですけれども、先ほどの質問に応えるなら、アタマ9曲くらいは特に思い入れ深い曲と言っていいと思います。やっぱりね、どれも聴いてるとDJでかけたくなるし、アナログ盤欲しくなりますよね(笑)。

ーーいいですね! これを機にアナログ盤リリースというのも期待してしまいます。

橋本:そうなんです、今、限定アナログ盤の企画も絶賛進行中ですので(笑)。アタマ9曲は入れたいと思いつつ、でも「夜空ノムコウ」も入れたいよなとか、ディスク2なら「ストーリー」とかDJでかけたいし、「ぬれた靴」~「サヨナラ」の流れもかなり気に入ってるしって感じで、アナログ1枚にしぼるのは大変で。

ーー悩ましいところですね(笑)。本当にグルーヴ感があってアナログ盤が欲しくなる音楽性ですよね。さて、続いてなんですが、橋本さんの考えるスガ シカオの魅力とは?

橋本:やっぱりFree Soulのパブリックイメージが体現しているような多幸感やポジティビティー、それはSMAPとかにも通じるところがあると思うんだけど、それと裏表になるような青春の光と影、という言葉に表されるような陰と陽の陰の部分っていうのが、スガ シカオならではの魅力というか。そういう偏執狂的なところ……「変態性」とかよく言われるところだと思うんだけど(笑)。

ーーそうですね、熱心なスガファンはそこに反応するという(笑)。

橋本:やっぱり陰影に富んでるところですよね、言葉も音楽も。あと、彼のいちばん凄いなと思っているところは、“きれいごと”を言わないところかな。たとえば「愛について」でも、哀しみを前提として、愛や希望について語るじゃない? あと、世の中にあふれてる不快なこととか苛立ちや不安や憤りや屈折みたいなものとちゃんと向き合って、その中で心に伝わる物語を描いていくっていうところが僕はいいなあと。さっきの〈黄金の月などなくても〉っていうところに象徴されるのかもしれないけど。音楽的にも甘くきれいな声ではないしね。

ーースガさんのボーカルの魅力は大きいですよね。本当に個性的というか、ワン・アンド・オンリーで。

橋本:ざらついた声というか、ユーミン言うところの「コーヒーのような声」。そういうほろ苦さが端的に言うと自分にとってのスガ シカオの魅力かな、っていう。

ーーやはり、陰影というのが重要ですね。

橋本:Free Soulで支持される曲は、躍動感があって甘酸っぱく切ない曲が多いけど、それが陽や光の部分だとしたら、陰や影の部分をスガ シカオの音楽性や歌詞が担ってくれるな、っていう。

ーーFree Soulも多面体ですからね。ある程度のパブリックイメージはあるけれど、ひとことで言い切ったりすることはできない。

橋本:その多面体的な部分や、アンビバレンスがあることによってより音楽の深みが増すと思ってるんですよね。

ーーまさにその通りですね。さっき、スガさんの音楽性の話になったときにスライの名前が出て、他にもビル・ウィザースやカーティス・メイフィールドとか、70年代のソウル~ファンクの影響がスガ シカオの音楽には色濃いと思いますが、橋本さんのファンクやソウルに関する遍歴や好みなどがあれば聞かせてください。

橋本:スライにしてもカーティスにしてもビル・ウィザースにしてもマーヴィン・ゲイにしても、僕もスガ シカオ本人も共通して愛してやまない、偉大なアーティストだと思うんですけど、全部すでにFree Soulでベスト・コンピレーションを作ってますね(笑)。

ーーああ! そうですね!

橋本:やっぱり300曲近くを聴き直す中でも、端々に今挙げたようなアーティストの音楽的なイディオム、スガ シカオなりの愛情表現というのが多く垣間見られたのは、選曲をしていてシンパシーを抱く瞬間でしたね。その意味でいうと、結局いちばんはワウギターかな。ワウギターとベースラインの推進力、跳ねたドラミング。僕やスガ シカオが70年代ソウルやファンクに共通して魅力を感じてる部分は、今言った要素が共通点なんだろうなと感じます。

ーー『フリー・ソウル・スガ シカオ』に入っている曲はそういった要素を感じさせるものが多いですね。

橋本:もちろんそれだけがスガ シカオの音楽の全体像ではないけどね。今回はFree Soul的なパースペクティブで切り取るっていうのがテーマだったので、そういう曲が多くなってます。

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