わーすた、“イロモノ”にならない卓越した歌唱力と表現力ーー冬将軍が音楽的魅力を熱弁

 目まぐるしく変化していくアイドルシーン。日々新しいグループが出てくる一方で、今年2018年は悲しい知らせも多くあった。Cheeky ParadeとGEMの解散、そしてSUPER☆GiRLSは複数メンバーの卒業発表など、アイドル戦国時代を彩ったエイベックスのアイドルレーベル<iDOL Street>もまた、そうした時代のうねりの渦中にあったように思う。そんな中で、2015年の結成以来、不動の5人で我が道を突き進んでいるのが、わーすたである。

 大手メジャーのアイドルが、SNS拡散を目的として公演の撮影をOKとしたことは画期的な施策であったし、ゲームミュージックテイストのサウンドに乗せてジェットコースター的楽曲展開のマッシュアップを猫耳衣装で歌い踊る2.5次元アイコンは、シーンに大きなインパクトを与えた。「うるとらみらくるくるふぁいなるアルティメットチョコびーむ」の〈マジでトリケラトプス強い〉というパワーフレーズは、日本語詞の概念を覆してしまった感すらある。

わーすた『GIRLS, BE AMBITIOUS!』

 そんな“The World Standard(世界標準)”を掲げるデジタルネイティブ世代のアイドルが、今年4月より「わーすたワンダフルYEAR」を掲げた新たなモードに突入している。結成以来のサウンドプロデューサー・鈴木まなかの退任を経て、SHIROSE(WHITE JAM)、みきとPといった新たな制作陣を迎えリリースされた2枚のミニアルバム『JUMPING SUMMER』(6月リリース)、『GIRLS, BE AMBITIOUS!』(11月リリース)はグループの魅力をさらに強調しつつ、新たな可能性を提示した聴きどころ満載の仕上がりになっている。

 時代の異端児ともいうべき、いい感じにぶっ飛んだ印象もあるわーすただが、その魅力はなんと言っても卓越した歌唱力にある。どんなフレーズでも精確に悠々と音を置いてくる廣川奈々聖と、強堅でしなやかな三品瑠香の鉄壁のツインボーカルはシーン屈指の強さを誇る。加えて、無邪気さ溢れる坂元葉月、精悍で凛々しい小玉梨々華、ちょっととぼけた松田美里――といった各メンバーのキャラクターを満遍なく詰め込み、独自の世界観を作り上げているのが『GIRLS, BE AMBITIOUS!』のリードトラック「大志を抱け!カルビアンビシャス!」だ。

わーすた / 大志を抱け!カルビアンビシャス! MUSIC VIDEO

 わーすたらしいはっちゃけ感のあるコミカルさを見せているが、楽曲を手掛けたみきとPによれば「小林旭『自動車ショー歌』にインスパイアされ」(参考:音楽ナタリー「わーすた、みきとP提供の新曲MVで“肉奉行”目指す」)の言葉通り、昭和歌謡の古典手法的言葉遊びが印象的で、ありそうでなかった曲だ。赤、黒、金を基調としたコントラスト強めのビジュアルワークも、淡いパステルカラーをメインカラーとしてきたこれまでとはまた違った印象を受ける。

わーすた『The World Standard』

 “デジタルネイティブ世代”と“昭和歌謡”、一見ミスマッチのように思えるが、これまでもわーすたにはそうした楽曲が多くあった。1stアルバム『The World Standard』収録の「ちいさな ちいさな」はカントリーフォーク、「らんらん・時代」はフラメンコ、2ndアルバム『パラドックス ワールド』の「ねぇ愛してみて」や「Stay with me baby」の音域広めなメロディは、往年のニューミュージックを彷彿とさせる。他にもあげればキリがないのだが、一般的なアイドルポップスにはあまり見られない哀愁感のあるシリアスな雰囲気の曲が多いのだ。先述の「うるチョコ」をはじめ、「いぬねこ。青春真っ盛り」や「グーチョキパンツの正義さん」といった、斬新かつその情報量の多さに一聴しただけでは困惑してしまいそうな奇抜な楽曲が表立っている裏で、「洋楽に憧れていたあの時代」を思い起こさせるような、古き良き日本の普遍性を歌う懐の広さを持ち合わせている。これも“世界照準”を見定めた“世界標準”なのかもしれない。ひとえに、絶対音感を持ち合わせているような廣川と、気丈さと細やかさを使い分ける三品のボーカルだからこそ為せる業でもあるだろう。

 しかしながらその完成度ゆえ、そうした“大人びた”楽曲は、背伸びしているようにも思えた。10代というメンバーの年齢を考えればあたりまえのことであるし、逆にそれが狙いだったところもあるだろう。それが現在では見合ったものになったどころか、余裕さえ感じられるようになった。ここに来て歌唱力と表現力はさらなる飛躍を見せているのだ。

わーすた『JUMPING SUMMER』

 『JUMPING SUMMER』の「スタンドアロン・コンプレックス」で聴ける高らかなる歌い上げ、テレビアニメ『キラッとプリ☆チャン』(テレビ東京系)のエンディングテーマ曲「プリティー☆チャンネル」でのアニメ声優風の歌唱法など、廣川の歌は青天井。近頃はアコースティックギターの繊細な弾き語りやエレクトリックギターの豪胆なプレイを披露するなど、その才を着実に拡げている三品の、「PLATONIC GIRL」における甘い猫なで声から吐き捨てるような野太いボーカルへと豹変する様に、彼女の持つアイドル性の中にあるアーティスト魂が一気に覚醒した瞬間を見た気がした。ライブでは、廣川と三品のスタンドマイクでバシっとキメるアクションと、坂元、松田、小玉による複雑なダンスに思わず拳が上がる同曲であるが、これもまたどこか懐かしく、昭和の“とっぽさ”を持ったロックナンバーであり、そうした楽曲がわーすたの新境地を感じさせているのは興味深いところである。

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