“フェスシーンの多様化”の土台にあるもの 常連バンドの躍進が生みだす新たなサイクル

“フェスシーンの多様化”の土台にあるもの

 2010年代前半、こんなことを言われることが多かった。「日本のバンドシーンでは均一化が進んでいる」「どのバンドも高速四つ打ち」「また裏打ちのシンバル多用の躍らせ系ロックか」といった、そんな空気。言い方は色々あったけれど、フェスで人気になるためのフォーマットがある程度確立されて、そのフォーマットに合わせて音を鳴らすバンドが増えていたのは事実だった。そして、そんな流れを揶揄する人も一定数いた。やがて、高速四つ打ちダンスロックというトレンドは飽和していく。その反動で、次はシティポップが台頭したなんて話もよく出る。個人的には、ダンスビートを好んでいた人がそのままシティポップに流れたとは思わないので、その見立て自体は怪しいと感じている。それでも、この10年の間に、フェスにブッキングされるバンドの音楽に幅が出てきたことは間違いない。そして、2018年はフェスシーンがより多様化したように感じるし、一つの流行りでフェスシーンを語るのが難しい状況になっている。ただ、この「一つの流行りでフェスシーンを語るのが難しい」という指摘には、色んな意味が込められる。

 まず、一つは2010年代後半から台頭してきたバンドが持つ音楽センスの多様化。「NEOかわいいオンナバンド」というコピーを掲げ、パンクもダンスもポップスも取り込むことで、力強いバンドサウンドと柔軟なグルーヴを作り出すCHAIはそんな新世代の代表となるバンドだろう。また、自ら「トーキョー・ニュー・ミクスチャー・スタイル」と称し、歌謡性のあるメロディがベースにありつつも、ブラックミュージック、ヒップホップ、ファンクなども盛り込み、和洋折衷なんでもありの文字通り「ミクスチャーロック」を奏でるKing Gnuもそんなバンドの一つだ。この二組は、海外の音楽を単に輸入するのではなく、日本の音楽も海外の音楽も、ロックもそれ以外のジャンルも、あるいは音楽のみならずファッションや別のカルチャーもフラットに取り込んでいる。yahyelやDATS、あるいは雨のパレードなんかもそういうセンスを持ち得たバンドだ。いずれにせよ、2010年代前半には見受けられなかったサウンドや佇まいのバンドが増えてきたこと。何より、そういう音楽を受け入れるリスナーが増加してきたこと。これが、「一つの流行りでフェスシーンを語ること」を難しくしている理由のひとつである。

 ただし、それだけが理由ではないように感じる。というのも、今、メガフェスと呼ばれているフェスで、一番大きなステージに立ち、たくさんのお客さんを集客しているバンドの多くは、2010年代前半、それこそ「日本のバンドシーンが均一化してきた」と言われていた時代に頭角を現してきたバンドだったりする。例えば、『COUNTDOWN JAPAN 18/19』(CDJ)にて、もっとも大きなステージであるEARTH STAGEに立った、前述した世代のバンドは下記が挙げられる。

* フレデリック
* BLUE ENCOUNT
* THE ORAL CIGARETTES
* クリープハイプ
* キュウソネコカミ
* ゲスの極み乙女。
* 04 Limited Sazabys
* KANA-BOON
* KEYTALK

 EARTH STAGEの枠は28個あり、大御所アーティストやアイドルもブッキングされるCDJにおいて、この比率は高いように感じるし、他のメガフェスならその比率はさらに上がる。また、[ALEXANDROS]のように、バンドが大きく躍進したのが2010年代前半、というバンドも数字に含めたら、その比率はさらに高くなる。何が言いたいかというと、2010年代前半のフェスシーンと、今のフェスシーンでは空気が大きく違うけれど、ごろっとフェスに出るメンツが替わったのかと言えば、そういうわけではない。2010年代前半に切磋琢磨したバンドの多くが、自分たちの志向する音を鳴らすようになったことで当時よりもその存在感を強くしている。ここは重要なポイントだ。

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