和田たけあき×seeeeecun×キタニタツヤ、ボカロ文化発アーティスト鼎談 東名阪ツアー開催の理由

ボカロ文化発アーティスト鼎談

 ボカロP、ネット発シンガーソングライターとしてシーンを沸かせ続ける和田たけあき、seeeeecun、キタニタツヤの3名が、2019年3月および4月に『Live Fes “Vox Box” Tour 2019』と銘打った初の東名阪ツアーを開催する。ライブは3月10日の名古屋公演にSori Sawada、3月23日の大阪公演にMI8k、4月6日の東京公演にかいりきベアをゲストに迎え、各公演4名体制で行われる。ボカロPのセルフボーカルに様々な解釈がとられるこの時期に、なぜ、大々的なツアーを開催する運びとなったのか。彼らが表現したいのは、楽曲そのものなのか、自分自身なのか。和気藹々としたムードの中、シーンの今後を見据えながら、楽曲制作を年々続けてきた彼らにしかわからない心の内を真剣に話してくれた。(小町 碧音)

音楽におけるアーティスト=世間的には「歌っている人」

和田たけあき

――皆さんはどのようにして出会ったのでしょうか。

一同:出会いか~!

seeeeecun:キタ二と和田さんが一番長いですよね。

キタ二タツヤ(以下、キタニ):多分。

和田たけあき(以下、和田):出会いはライブハウス、渋谷チェルシーホテルだよね。同人音楽界隈のライブがあって。

キタニ:あーー! ライブに客として行った時か。

seeeeecun:俺は、キタニも出ていた須田景凪さん(当時はバルーン名義)のライブで。

キタニ:一昨年の8月?

seeeeecun:そう。その時初めて和田さんと出会って「seeeeecunさんって陰の者じゃなくて、陽の者だったんだ」みたいな。

和田:陰の暗い人だと思ってたんだ(笑)。

seeeeecun:僕はキタニは結構前からボーマス(『THE VOC@LOiD M@STER』)などのイベントで一緒になっていたので、怖い人だなと。

キタニ:顔見知りくらい。

和田:僕はキタニとの出会いは多分、2014年のはずですね。

――ということはキタニさんが2014年に活動を始めた時?

和田:そういうことになりますね。

seeeeecun:3人とも界隈が近いので、最近は結構話すこともあって。昨年はるまきごはんと和田さんと3人でスリーマンライブをしたんですね。その時に、キタニも和田さんバンドのベースで演奏していて、キタ二タツヤとしても一緒にライブやろうっていうことで昨年9月にライブをやって、より親密になったという感じです。

――なるほど。先程、陰キャラというお話がありましたが、皆さん楽曲も割と怖いですよね。

キタニ:そうですね。曲も我々怖いですね。

和田:確かに確かに。

キタニ:それ言ったらseeeeecunも怖めではあるよね。

和田:曲怖いでいえばseeeeecunも怖い。

seeeeecun:怖くないですよ(笑)。でもまぁそうか。怖いか……。人と曲のギャップがすごい好きなのでそうなるのかも。尖ったままなのはかっこいいなとは思いますね。

――尖ってる部分はそれぞれに感じますか?

和田:一番思うのはseeeeecunかもしれないですね。多分僕やキタニってベーシックが闇でその一部を尖らせて曲に出してる感じだと思うんですけど、seeeeecunはベーシックが光なので。

seeeeecun:んふふふふ(笑)。

キタニ:その光から垣間見える闇がね。

和田:垣間見える闇が、無駄なく全部曲に出てる感じがして。

seeeeecun:(笑)。結構、嫌だなと思ったことはすぐ曲にして、ストレスを発散しますね。

和田:だからseeeeecunが嫌そうにしていることがあると、割とその1カ月後ぐらいに曲になって投稿されていることがあります。

seeeeecun、キタニ:(笑)。

――それわかりますか?

和田:わかりますねー。

seeeeecun:恥ずかしい(笑)。


――seeeeecunさんに限らず、キタニさんと和田さんもそういったところってありますか?

和田:僕の場合は思っていることとかはそのままなんですけど、割とフィクションにしちゃうので。

キタニ:割と僕はseeeeecunに近いかな。ただ、そういう曲の割合がseeeeecunはめっちゃ高くて、seeeeecunの荒れ具合はライブパフォーマンスからも伝わってくるから「身が入ってるねー!」って思ってます。

――東名阪ツアーの発起人は誰だったんですか?

キタニ:動いてくれたのはこの2人ですね。

和田:ライブは東京でずっとやっていたんですけど、地方のお客さんからも、関西にも来てほしいと言われていて。一回こっちから行かないといけないなと思いつつも、先延ばしになっていたこともあって、今回ようやく実現しました。

seeeeecun:それで昨年の11月くらいに和田さんと調整して、最初スリーマンで回る予定だったんですけど、各地にゲスト呼んだら面白いんじゃない? って話をした時にMI8kがいたので、大阪でやらない? って声を掛けて。名古屋ならSawadaだよね、みたいな。ただ、東京がずっと決まってなくて……ふと、Twitterのタイムラインでかいりきベアさんを見かけて、かいりきさんと「今度ライブしましょう」って話していたのを思い出して、誘ったら行けますという反応だったので。

和田:ボカロPの仲良い人でなおかつライブする人ってなると少ないので、無理やり増やしにかかってますね。

キタニ:ステージに立つことに抵抗ある・ないでかなり絞られちゃう界隈なので。

和田:確かに確かに。

――そういう意味ではseeeeecunさんと和田さんとキタニさんはステージには出たい側ですか?

一同:出たいすねー。

キタニ:出るべきだと思ってますね。

seeeeecun:裏方は嫌ですね。楽曲提供は活動の一部としてはやりたいですけど、それがメインだと自分の性に合わないところもあって。僕は楽曲提供してないですけど、お二人はどうなのかなと。

キタニ:僕はやっぱり、メインはアーティストとしてやりたいです。

和田:僕もそうですね。提供は依頼あってのものじゃないですか。これから先、僕らみたいに自分で全部できるアーティストが増えていくとなると人に楽曲提供依頼もしないので、自分主体でやっていける状態じゃないと今後仕事は減っていくと思うんですよ。単純に、イヤらしい話、生き残りみたいなものを考えた場合であってもアーティストのほうがいいなとは思いますね。

seeeeecun:自分が中学くらいにギター始めた時から簡単に曲を作れるような技術革新があったらいいなってずっと思ってたんですけど、すぐにそんな時代がきて、ボカロP、そうじゃなくてもSoundCloudやYouTubeに曲をあげている人がいるじゃないですか。そういう人がどんどんCDデビューしているのを見ると、変わったなーと思う。

和田:界隈の話で言うと、僕らが歌うようになった以外にも、作詞作曲をする歌い手が増えてきたのもあるんですよ。これからはどんどん一人完結の状況になっていくと思う。それと、ボカロPは大きく分けるとアーティスト派かプロデューサー派に分かれる。アーティスト派は歌うしかないんじゃないかなって。僕がボカロを始めたのは、歌わずとも自分の名前でアーティスト活動ができるからなんですね。だから別に僕は歌いたいわけじゃなくて。でも何年かボカロをやって気付いたのが、音楽におけるアーティストって世間的には「歌っている人」だということなんですよ。

キタニ:めっちゃわかる。アーティスト名は歌っている人の名前になりますからね。

和田:だから、アーティスト=歌手なんですよね。僕としては嫌なんですけど、しょうがないのかなって。ボカロだけをやっていても、世間は少なくともアーティストとしては見てはくれない。そこで仕方なく歌い始めたら、結構楽しかったっていうのはあります。

――和田さんは昨年の9月にセルフカバーアルバム『かおなしスタンプ』を出されてましたよね。

和田:そうですね。一昨年の春ぐらいにもう歌わないとどうしようもないと思って。それで半年ぐらい練習をして、ライブをやり始めたんです。

――そういう意味ではseeeeecunさんも前からセルフカバー動画を投稿されていましたよね。

seeeeecun:そうですね。昨年、Doctrine Doctrine(歌い手・宮下遊とのプロジェクト)をやったときに、自分が作った曲は、もっと自分で表現してみたいなと思ったんですね。ボカロPだから、プロデューサーって言われるんですけど、プロデューサーじゃねえしみたいな感じもずっとあったので、新曲の「ケモサビ」は自身歌唱を原曲として、YouTubeに投稿したんです。

――自分の曲を歌い手さんが歌って注目されるのを目の当たりにすると、自分のことも見てほしいという感情が湧き出てくるんですね。

seeeeecun:そう。もっと自分でもやりたいと思うようになって。ちょうどその時久しぶりに配信でMr.Childrenの曲を聴いたんですよ。彼らが音楽の原点といえるものだったので、「俺がやりたかったのは桜井さんだった~!!」って。

キタニ:初期衝動を思い出したんだね。

seeeeecun:そういった紆余曲折あって、今年から自分で歌うスタイルもやり始めたという感じですね。今後ボカロ楽曲をあげる予定もあるんですけど、増えていくのは自分で歌う方です。今ってiTunesとかって邦楽洋楽ごちゃ混ぜじゃないですか。最近The 1975っていうバンドをよく聴いてるんですけど、その隣に僕のアルバムが並ぶとしたら、ボカロじゃなく自分が歌った作品があってほしいっていう気持ちがあって。今まで憧れてきた人たちの、大袈裟に言うと歴史の中のひとりになりたいですね。

――キタニさんはいかがでしょう?

キタニ:僕が歌い始めたのは、ボカロ曲として公開した「芥の部屋は錆色に沈む」という曲が自身初の10万回再生を達成したときで。ありがとう!っていう気持ちで、その曲のアコースティックアレンジを弾き語りで投稿したら、意外と反響が良くて。その頃、すでにセルフカバーしている人もちらほらいたから、小さい頃から歌うのは好きだし、じゃあ俺もやってみるかって。実際にライブをするようになっても、多分俺はちゃんとできる! じゃあやるかー! って。全然深い考えはないんですけど、周りに背中を押されたんですよね。

和田:一番自然だよね。

キタニ:そうですね。僕は高校生の頃からバンドをやっていて、ずっとベースを弾きながら歌ってたので、歌うことへの抵抗はなかったですね。

seeeeecun:キタニが歌い始めたことで若干感化されたんですよ。セルフカバーの活動には憧れはあるけど、反発する既存のボカロファンも出てくるわけだから、怖さもあると思っていたんです。だけど、スルッとすり抜けていくキタニを見たら、作品がいいと評価されるんだな、じゃあもう頑張るしかないって。

キタニ:やっぱり再生回数はセルフカバーより、ボカロの方が伸びる傾向にあったんですけど、少しずつセルフカバーがボカロの原曲を追い抜くようになってきたから、俺コツコツ頑張ったなーと思ってたんですけど。褒めてくれて嬉しいです(笑)。

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