BTSの3部門受賞だけではない 『Korean Music Awards』を通じて見える韓国大衆音楽の独自性

 2019年2月26日の夜、今年で16回目を迎える『韓国大衆音楽賞(Korean Music Awards/以下KMA)』の授賞式がソウルで行われた。すでにさまざまなメディアが報じている通り、今回はBTS(防弾少年団)が5部門にノミネートされ、そのうち「今年のアーティスト賞」「今年の歌」「最優秀ポップソング賞」に輝いている。彼らの受賞によって『KMA』をはじめて知った人も多いだろう。

 韓国にはたくさんの音楽授賞式がある。賞を決める際は、テレビ&ラジオ番組への貢献度やチャートの成績、ファン投票に重きを置く場合が大半で、大人の事情が見え隠れするときもある。ところが、『KMA』は第1回から一貫して「音楽そのものが良いかどうか」だけが判断基準だ。選定委員には評論家や放送関係者、イベントプロデューサーなど、各業界のトップクラスが就いていると聞く。そんなプロの中のプロたちがBTSを3部門で高く評価したことは、K-POP史に残る出来事と言っても過言ではない。

 『KMA』でアイドル的な人気を持つアーティストが重要な賞を獲るのは、過去では少女時代やBIGBANGなど数えるほど。マスコミがBTSばかりを取り上げるのも十分に理解できる。しかしこの授賞式で注目すべきポイントは他にもある。『KMA』を通して日本のリスナーに知ってもらいたいのは、売れ筋だけを追っていては把握できない韓国の大衆音楽の「独自性」だ。

Bassagong『Tang-A』

 それが最も顕著に表れたジャンルは、1990年代からゆっくりと熟成させてきた“大韓ヒップホップ”である。2018年は本場アメリカから少し距離を置いたスタイルで個性をアピールしたアーティストが目立った。『Tang-A』で「最優秀ラップ&ヒップホップ音盤」を受賞したBassagongは、アメリカ南部のR&Bやカントリーを思わせるサウンドをバックにレイドバックしたラップを響かせる。この組み合わせの妙が受賞した理由のひとつだろう。「最優秀ラップ&ヒップホップ曲」に選ばれたXXXの「間奏曲」も印象的だ。聴き手をフロアで踊らせるという原則にとらわれず、クラシカルなイントロからスタート。インダストリアル風のトラックから漂う不穏なムードはヒップホップの枠から大きく外れている。

뱃사공 (Bassagong) - 로데오 (RODEO) MV
XXX - 간주곡 (Ganju Gok)

 特定のジャンルに縛られない曲作りといえば、リリース直後に一部のポップスマニアから絶賛された空中泥棒の『Crumbling』が、すぐに頭に浮かぶ。古き良き時代のヨーロッパ映画のOSTを聴いているような、それでいて旬のインディーロックやエレクトロポップのようでもある。穏やかな音像と思いきや、ときおり暴力的な面も見せる予測不能な楽曲のオンパレード。商業路線とは真逆の方向を進むこのアーティストの作品を「最優秀ダンス&エレクトロニック音盤」として取り上げるとは、さすが『KMA』だ。

 だからといって、革新的・実験的なサウンドばかりが認められるわけではない。『KMA』ではストレートなロックであっても志の高さがあれば正当に評価されることが多い。その代表格がLIFE and TIMEである。「最優秀ロック音盤」を受賞した彼らの『Age』は、3ピースバンドの可能性を追求したアルバムで、2018年の韓国インディーズを代表する1枚だ。ロックのダイナミズムを損なうことなく余白の美を意識した歌と演奏は、ヘッドフォンで聴いてもライブで体験しても良さが変わらない仕上がりになっているのが素晴らしい。

라이프 앤 타임 Life and Time - 정점 Summit Official M/V

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