夏代孝明、超満員のリキッドルームで『Fußgänger』ツアーファイナル

夏代孝明『Fußgänger』ツアーファイナルレポ

 アルバム『Gänger』の主旋律である“音楽で人間を描きたい”という夏代孝明の思いは、この日のステージにも目に見える形で投影されていたーー。ライブでも夏代は、観客と対等に純粋な会話のキャッチボールを楽しむのを忘れない。時に冗談交じりに観客を笑わせては、聴こえた些細な声にも耳を傾け、応える。夏代はきっと人が好きだ。だからこそ、その純な計らいにお客さんは心を掴まれる。

 1stアルバム『フィルライト』から数えると約4年ぶりとなるアルバム『Gänger』は、夏代が全ての楽曲の作詞作曲を手がけた作品だ。アルバム表題曲「Gänger」のMVでは初のダンスにも挑戦している。そんな彼の変化をライブで味わいたいといわんばかりに、3月17日東京LIQIDROOMで開催された『Fußgänger』ツアーファイナル公演には10~20代を中心とした多くの観客が集まった。

 開演時刻前に始まった夏代による架空のラジオ放送での曲紹介により始まった「Gänger」。曲名がアナウンスされると、観客から歓声と拍手が沸き、バンドメンバーがどっしりとしたサウンドを響き渡らせ、ステージ両端ではダンサー2人が踊る。そのダンサーの間から夏代がステージに登場した。

〈誰もいない道を歩いた 謂れのない噂を知った 自分の目で確かめなくちゃ 信じない〉

 不確かな未来を思い、手探り状態でも着実に歩みを進める姿は、ステージ上でダンスをしながら歌う夏代そのもの。2008年に動画サイトへの投稿を始めた夏代が、2018年11月に発表した「Gänger」のMVには、夏代がいくつもの経験を積みアップデートされていくなかで生まれた“ファンを楽しませたい”という気持ちが表れている。

 「東京の皆さん! 今日は来てくれてありがとう! 楽しんでいきましょう!」と夏代が笑顔で伝え、ダンサーがステージを去り披露したのは、「REX」。アルバム『Gänger』のなかでも、ギター色の濃いロックサウンドが印象的な楽曲だ。また、夏代の音楽ルーツにあるJ-POPなどのオマージュが浮き彫りになっている曲でもある。ステージは真っ赤な配色に変化し、身体を上下に振る夏代。曲中も熱いコール&レスポンスのリピートだ。続いて、不安定な心を揺さぶるようなイントロで始まったのは「エンドロール」。

〈「誰も分かってくれない。 だから誰の事も理解できなかった。」〉

 絶望的なフレーズが強く胸を刺すが、大きく腕を広げ、胸に手をあて、腕を真上へと伸ばしながら歌う夏代が歌い上げることで、観客に揺るぎない想いが届けられていく。そして、再び2人のダンサーが登場し、夏代が楽し気に踊る中で披露された「恋しているのさ」「キャラメル」では、その楽しさを観客と共有した。

 「フィルライトメッセージ」からのステージは、ギターを抱え歌う夏代の“ギターステージ”に。中盤でギターを置き歌ったのは、夏代の大切な一曲「ニア」。真上からのライトアップによって神々しく映る夏代は、寂しさのなかにある奥深い感情を丁寧に歌い上げ、観客の心に“優しさ”を沁み込ませた。続く「世界の真ん中を歩く」、「ユニバース」で会場内は最高潮の盛り上がりを見せる。夏代は一つひとつの語を胸に刻むように歌いながら細かな手振りで華麗に表現し、一層の輝きを放っていた。

 後半戦には、夏代のボーカルの美しさを際立たせるバラード楽曲が並んだ。本当は一人ひとりに歌ってあげたい気持ちでいると話したのち歌われた新曲の「すきま」は、椅子に腰を掛け、アコースティックギターで弾き語る。会場に響いた夏代の声は、路上ライブさながらの雰囲気を醸し出し、観客との心の距離がぐっと近づいた。

 改めて登場したアンコールでは、観客と両想いだということを確かめ合った後で、「両想いだったので止めますね(笑)」と冗談交じりに告げながら「カタオモイ」、「夕立のりぼん」を披露。「もっともっと皆に好きになってもらえるような楽しんでもらえるような夏代孝明に成長していこうと思うので、どうか末永くよろしくお願いします。今日は本当にみんな来てくれてありがとう!」と深謝し、ラストに披露したのはダンサーが妖しげなダンスで魅せたロックチューンの新曲「DEADMAN」。歌い終えた夏代がステージ中央に向かいジャンプをしてファイナル東京公演は締めくくられた。

 夏代は、7月29日より大阪、東京、台湾の3都市を回るライブツアー『Vacilando』を開催する。今回のツアーを経て得た経験を糧に、これからも多くのリスナーに支えられながら、皆で新たな旅へと向かっていくのだろう。

■小町 碧音
1991年生まれ。歌い手、邦楽ロックを得意とする音楽メインのフリーライター。高校生の頃から気になったアーティストのライブにはよく足を運んでます。『Real Sound』『BASS ON TOP』『UtaTen』などに寄稿。
Twitter

■ツアー情報
『夏代孝明 Live Tour「Vacilando」』
7月29日(月) 大阪 BIGCAT
8月2日(金) 東京 TSUTAYA O-EAST
8月31日(土) 台湾 Corner House 角落文創展演空間

チケット先行販売
【大阪・東京公演】 3月21日(木・祝) 12:00~4月7日(日)23:59
【台湾公演】 7月10日(水)~

オフィシャルサイト

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