miletが語る、原恵一監督と作り上げた映画『バースデー・ワンダーランド』の音楽の世界

milet、映画音楽への情熱

 映像作家の関和亮が監督を務めたドラマ『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』のオープニングテーマに起用されたデビュー曲「inside you」が人気音楽配信サイト全11サイトで初登場1位を獲得したmilet(ミレイ)が、同曲を収録した1st EP『inside you EP』からたった2カ月という短いタームで2枚目のEP『Wonderland EP』をリリースした。

 2018年より音楽活動をスタートさせ、同年10月にはイヴ・サンローランのグローバルイベントに大抜擢され、翌年3月にはハスキーながらも重厚感のある歌声と心地の良い孤独を感じせてくれる音楽で鮮烈なデビューを飾った彼女は、果たしてどんなシンガーソングライターなのか。原恵一監督の最新アニメーション映画『バースデー・ワンダーランド』のメインテーマ「THE SHOW」(Lenkaのカバー)と挿入歌「Wonderland」を担当した話を入り口に彼女のルーツを探った。(永堀アツオ)

憧れの原監督とのコラボレーション

——まず、アニメーション映画『バースデー・ワンダーランド』の歌のオファーを受けた時の心境から聞かせてください。

milet:最初、「THE SHOW」のカバーお話をいただいていたんですね。「原恵一監督の新しいアニメーション映画の音楽をやるよ」って言われて。私、原恵一監督がアニメーション監督の中で一番好きだったんですよ! 特に『河童のクゥと夏休み』がすごく好きで。学生時代、結構、心境的にきつかったり、引きこもっていた時期に出会ったから、だいぶ支えられた作品なんです。それから、原恵一監督の作品を全部観たんですけど、どの作品も根底に優しさがあって。作品ににじみ出ている監督の人柄が私には沁みて。それからずっと好きだったので、スタッフは「知ってる? 原恵一監督の作品なんだけど」みたいなノリでくるんですけど、私は前のめりで「原恵一監督!!」って叫びました(笑)。だから、心境としては、信じられなかったんですけど、嬉しかったですね。最初にお話をいただいたときは、Lenkaさんの曲のカバーで、日本語で歌うかもしれないっていう話だけを聞いて。打ち合わせで初めて原監督とお会いして。

——実際にお会いしてどうでした?

milet:私にとってはもう憧れの方ですよ。追っかけなので、原監督のインタビューが載ってる雑誌は全部持ってるし、ストイックな方という印象だったんですがとても気さくな方で。私が好きな最中を差し入れしたら「美味しい」って食べてくれて!

——(笑)。ただのファンになってる!?

milet:ふふふ。それだけで嬉しかったですね。私は邦画も好きなので、いろんな映画の話もできて。それこそ『河童のクゥと夏休み』のロケ地の話も伺って。私が大ファンだって言ったら、喜んでくださって。それから、『バースデー・ワンダーランド』のお話に移ったんですけど、すごい情熱だったんですよね。原監督の初めてのファンタジー映画で、挑戦というのもあったし。とにかく全力を注いで作っているという思いを聞いて、私もこれは死ぬ気で取り組まないとなと思って。その場で初めて「もう1曲、挿入歌をお願いしたいんです。ここでmiletさんの曲を流します」って言われたところの絵コンテが、原作を読んでいたからわかったんですけど、最高にクライマックスなんですよね。一番の盛り上がりのところだし、セリフもないし、1分半くらいの長さもあって。大丈夫かな?って思ったんですけど、その場でメロディも浮かんできたので、帰ってすぐにデモを作って、聴いていただいたら一発OKになりました。

——すごい展開の速さですね。一つひとつお伺いしたいんですが、まず、「THE SHOW」をカバーすることについてはどう思いました?

milet:最初はどうしよう? って思ってました。歌詞は原監督と作詞を共作させていただいたんですけど、原監督が直筆で書いてくださった歌詞案が結構な量で、原曲とはだいぶ違うメッセージ性を持ってたんですね。映画の中のメッセージ性を伝えようっていうことで送ってくださって。それはもちろん、私も歌の中に入れたいと思ったし、Lenkaさんの歌詞のメッセージ性も入れたいし、日本語と英語のリズムも合わせたいしって思ってて。日本語がなかなかハマらなくて大変だったんですけど、すごくいい形になったと思います。

——2008年にヒットした原曲は“大人可愛いパステルポップ”と称されてました。低音の効いた歌声でダークな世界観を描いていた1st EPとは真逆にも感じますが。

milet:自分では方向性が違うとはあまり思ってなくて。私は映像の大学で音楽効果を学んでいたんですね。だから、もともと映画音楽が好きで、映画の音楽をやりたいって思っていて。でも、映画の挿入歌って難しいんですよね。いい曲で浮いてもダメだし、悪い曲でずれてもダメだし。作品の世界観やメッセージ性も汲み取りながら、アニメーションで言ったら、声優さんと同じくらい馴染んでないとダメだと思ってるんです。映画を見ていて、この音楽いいなっていうのはダメではないけど、順番が逆。あのシーン印象的だったなっていうシーンに、すごくいい音楽がついてたって後から気づくような音楽が、映画音楽としては効果的だって思ってるんです。大事なことは、そのシーンに流れてマッチしてるかどうかなので、私も私の歌がどうかというよりは、作品の一部になろうって思って作ってましたね。

——ちなみに音楽のルーツというと?

milet:クラシック音楽ですね。小学生の頃からフルートをやっていて。ベートーヴェンやパガニーニが好きで、音大に入りたいなって思っていた時期もありました。そこから私が映画に夢中になるようになったきっかけが、『2001年宇宙の旅』で。「ツァラトゥストラはかく語りき」とか、クラシック音楽がバンバンに流れるじゃないですか。もともとあるクラシックの大名曲ばかりなのに、あんなに映像に合うっていうことに初めてびっくりして。あの映画は音楽というか、音自体も面白いんですよね。宇宙空間の無音シーンについて勉強したりもしてました。

——最初に邦画も好きって言ってましたよね。

milet:好きですね。黒澤明監督の『酔いどれ天使』っていう映画に「カッコー・ワルツ」(ヨナーソン)が使われているシーンがあって。主人公が闇市を歩いていて体も心もボロボロで、やつれて元気がない時に底抜けに明るくて元気な音楽が拡声器で流れるんですよ。そのギャップ、対位法って言われるような使い方をされてて。そんなに長いシーンではないんですけど、耳や目だけじゃなく、体全体で感じられる気がして。そうい音楽の使い方がすごいなって思いますね。あと、こないだは小津安二郎監督の『晩春』も観てましたし、洋画だけど『タクシードライバー』も好き。ニューヨークの街のシーンで流れる音楽も最高です。

——映画音楽への熱が伝わってきました。話を戻すと、原曲と原監督のメッセージで重なってる部分というのはありましたか?

milet:Lenkaさんの原曲は、アバウトにいうと、迷いながらでも人生を楽しんでいこうっていうメッセージ性があるんですよね。そこは原監督も近くて。嫌なこともいっぱいあるけど、自分の心を信じて、綺麗なものを見て生きていこうっていうポジティブなメッセージ性は重なっているところかなって思います。

——違いは楽曲の主人公である“私”の年齢でしょうか。”大人可愛い”とは異なりますよね。

milet:原監督からは映画の主人公である12歳の女の子の気持ちになって歌ってほしいという要望がありました。Lenkaさんの「THE SHOW」も、ブラッド・ピッドの映画『マネーボール』の中で、ブラピの娘さん役の女の子がギターで歌うシーンがあって。それが、そんなに上手いっていうわけじゃなくて、ちょっと恥ずかしがりながら、たどたどしく弾くんですけど、そのシーンをリファレンス(参照)に出してくださったんですね。だから、原曲のあっけらかんした感じというよりは、『マネーボール』の女の子の感じ。子供らしさもあるけど、ちゃんと現実もわかってる女の子の目線でって言われたことで、私もつかみやすくなったなって思います。

——大人と子供の視点が混在してます?

milet:いや、全部、子供の気持ちで考えました。私自身、12歳の頃って何を考えたかなって振り返ってみると意外と現実的だったんですよね。ちゃんと将来のことを考えていたり、自分のことをわかってる面もあったり。でも、まだ心や体が追いついてないところもあって。12歳って子供に思うけど、狭間の時期って長いと思ってて。私ももう大人だけど、全然子供の部分もある。だから、12歳の女の子も、大人の女の人も、ずっと狭間にいて、行ったり来たりしてると思うんですよ。そんなに変わった部分って、もしかしたらないのかもしれないなって思ったりして。12歳という数字だけを見ると、どうしても幼い女の子にように感じるけど、実はそうじゃなくて。もっと現実的だったりするところがあったなって思うと、これは全部、12歳くらいの女の子の気持ちでもあるなって思って。なので、部分的に、大人の気持ちに見えたりするけど、実は小さい子もこうやって考えてるよっていう風に大人の人に思ってもらいたいなと思って、こういう風に書きました。

——miletさん自身が12歳の頃から変わってない、歌詞でいう〈私が信じたいもの〉ってなんでしょう。

milet:嫌なことはしない、好きなことだけする。それは変わってないですね。好きなことをするっていうよりも、嫌いなことをやらないっていう方が大きいかもしれないですけど。

——そう思うようになった何かきっかけがありました?

milet:うーん。自分が嫌だなって思うことをしてて、疲れたって思ったのが12歳、中学生の時だったんですよね。お母さんに相談したら、「嫌ならやらなくていいよ」って言われて。それまでは深刻に考えてたけど、違う方向に気持ちを転換したら、すごく楽になって。嫌なことから逃げるっていうとどうしてもネガティブになりやすいけど、好きな方をやるとそっちが楽しくできる。そうやって気の持ちようを変えたことで、ずいぶんと楽になったなって思いますね。

——自分がどう感じてるかってことですよね。日本語歌詞にもなんども〈私の心〉というフレーズが出てきます。

milet:監督からも何回も言われた言葉ですね。原恵一監督が考える美しいものってなんだろう? 〈私の心と一緒〉にってどういうことだろうって考えたりしながら描いてたんですけど、私、原監督の大ファンなので、こう言っては何ですけど、分かるんですよ。ふふふ。きっと、汚いものも、綺麗なものも、それをそのまま受け入れられる心だと思うんですよね。美化することなく、嘘はつかないで、感じたものは感じたって思える。そういう意味では、綺麗な心ですよね。なんのフィルターもかかってない。傷つくかもしれないけど、まっさらな心でいたいということかなって思いました。あと、すごく印象的だったのは、結構、歌詞のやり取りをしていたんですけど、この時はまだデビューもしてないですし、監督も私の曲はデモくらいしか聞いてない。見ず知らずの私の事を、一人のアーティストとして接してくれたんですよね、歌詞も、「こういうのはどうでしょう?」っていう、全部提案だったんですよ。

——こうして欲しいとか、こっちの方がいいとかではなく。

milet:そうです。私の意見も尊重してくれるし、その温かさにまた惚れ直すというか。そこからもう人柄が出てるし、だからこそ、優しい作品になるんだなっていうのがわかりましたね。

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