the engyのエモーションはどこまで届くのか 期待のバンドの衝動の源を見た

the engy、期待のバンドの衝動の源を見た

 ステージの上から熱い思いが放たれていた。ボーカリストは腕を振り上げながら、フロアのほうに訴えるように歌い続ける。魂がじりじりとこちらに迫ってくる。

 その瞬間、彼はこう叫んでいた――〈Can you touch me?〉。

 バンドの名前は、the engy……「ジ・エンギー」という。

 the engyのことを知ったきっかけは、誰かから噂を聞いたことだったか、あるいは何かの音楽関係のニュースだったか。その時に聴いた「All about」に強く惹かれた。

the engy 「All about 」Lyric Video

 曲を貫くのは、バンドが鳴らすダンサブルなビート。それでいながらエレクトロニクスを駆使した精緻な音作りもされているし、何よりも、時おりファルセット気味になるソウルフルな歌声が胸に残る。その言葉はyou、“あなた”のことを激しく、せつなく求めていた(彼らの歌詞はすべて英語で書かれている)。しかも洗練度、完成度、ともに高い。そのほかのナンバーも聴くうちに、これはかなりハイレベルなバンドであると感じた。

 6月7日金曜日、渋谷Milkyway。the engyを生で観るチャンスが巡ってきた。そして当夜のイベントの半ばで姿を見せた彼らは、音源のイメージとはちょっと異なるライブを展開してくれたのである。

 舞台に揃った4人がまず鳴らしたのは「Under the water」。これもソウルフルなナンバーだ。

the engy / Under the water (Official Video)

 ヒップホップ、R&B、それにアシッドジャズも経由した感のあるマイルドなグルーヴ。ボーカルの山路洸至が曲の前半で聴かせたラップには、切々とした感情がみなぎっている。昨年リリースした1stアルバム『Call us whatever you want』からの曲だ。

 そしてステージが進むにつれ、やがて感じたのは、思った以上にライブが熱いことだった。

 先ほど挙げたアルバムはよく作り込まれた作品で、そのクオリティ自体が、理想の音に対するバンドの意識の高さを感じさせるものである。クラブサウンド、あるいはブラックミュージックを下敷きにしながら、歌メロにはポップネスも宿っている。聴き心地は、まさにアーバンだ。

 ネットを中心に彼らの音楽への評価を探ったところ、すでにMaroon 5やエド・シーランを引き合いに出す見方をされていた。納得である。楽曲によっては、今であればトム・ミッシュ、日本のバンドで言えばNullbarichに通じるソウル感も見出せる。英語詞の耳ざわりも良く、つまるところ、聴く人によっては、オシャレな音楽だと捉えることだろう。

 しかしライブの場でのthe engyは、それ以上にパッションが迫ってくるバンドだったのだ。とくに山路は、歌に集中しながらも熱い感情をまるで隠すことなく、客席に向かってグイグイとにじり寄ってくる。そして曲と曲の合間では、笑顔で話す。

「東京の人は、京都の人間のことをオシャレだと思われてるそうなんですけど。そうですか? ほんとに? ……すいません、汗かきメガネで(笑)」

 まったく飾らない言葉。そう言われてよく見ると、メンバーの4人ともがメガネをかけている。しかし、メガネだから知性的とするのは安直すぎるにしても、ライブで感じたこのバンドの本質は、むしろエモーションだ。そのぐらい秘めたものが熱い。パフォーマンスで汗が飛び散るのは当然である。

 セットの後半では「Touch me」というナンバーがプレイされた。これは今度から配信されるという新曲で、ループ的な構成やファンキーな展開など多層的な要素を持つ、これまた非常に洗練された仕上がりである。だがこの歌でも、“あなた”にもう一度近づきたい、僕に触れてくれないか? という思いが炸裂している。

the engy - Touch me

 その後、山路はこんなMCをした。

「来週、新曲をリリースします! 自分たちの音楽は、ここにいる人たちとか、ここにいない人たちとか、そういうところまで届くと思うと……震えそうです!」

 ちょっとでも近づきたい。この思いが届いてほしい。“あなた”に。

 優れたサウンド感覚を持つバンド、the engyの衝動の源はここにある。

 今後、そのエモーションはどこまで届くのか。期待する。

(文=青木優)

the engy『Touch me』

■リリース情報 
「Touch me」
主要ストリーミングサービスおよび主要ダウンロードサービスにて6月12日より配信スタート

■出演イベント情報 
7月10日(水)at.心斎橋JANUS
『Nite Club JANUS』
act. Omoinotake、STEPHENSMITH、RAMMELLS、the engy 
open18:30/start19:00 
adv¥2,500/door¥3,000

■関連リンク
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