スガ シカオ、タフネスとファンクネスが増した最新にして最高の姿 アルバムツアーNHKホール公演

スガ シカオ、NHKホール公演レポート

 この年になってまた新しいチャレンジができるーー。ライブ序盤、喜びに溢れたMCに全ては尽きていると思った。令和と共にスガ シカオ新時代の幕開けを告げる傑作『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』リリースツアーの13本目、6月23日NHKホール。最新にして最高のスガ シカオがそこにいた。同じ時代を生きる同世代の人間として、憧れと嫉妬すら感じる凄いライブだった。

 トランペット、サックス、トロンボーンによる「ファイヤーホーンズ」が、高らかに吹き鳴らすファンファーレ。真っ赤な衣装が目を引くギターのDURANを筆頭に、ベース、ドラムが叩き出す筋肉質のファンクビート。ブルーのスーツで決めた今日の主役が、颯爽と現れマイクをつかみ「労働なんかしないで 光合成だけで生きたい」を歌い出すーー。伝統的なソウル/ファンクのショーを意識した、ワクワク度満点のオープニング、これで盛り上がらない方がおかしい。粘っこいファンクビートの「バナナの国の黄色い戦争」から、しっとり聴かせるスムース&メロウな「遠い夜明け」へ。主役の後ろ、コーラス担当マヤ・ハッチの、シースルーの黒ドレスと艶やかな歌声についつい目と耳が行くのは仕方ない。「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」と、「おれだってギター1本抱えて 田舎から上京したかった」の2曲は、続けて演奏することで意図された組曲のように物語が一気に広がる。糸を引くようなねばねばスローファンクのビートに乗り、嬉々としてリードギターを弾きまくる本日の主役・スガ シカオ。どうやら絶好調だ。

「この年になってまた新しいチャレンジができること、そしてNHKホール2DAYSが満杯になること。本当にありがとう。アルバム全曲、そして昔からのファンのために、レアな曲も用意してます。最後まで楽しんで」

 デビュー22年間で積み上げたスタイルを変革し、新次元を切り開いたニューアルバム。この日のステージにキーボードがいないのも、アルバムの音楽的コンセプトに連動したものだ。その中で最初にできたという「スターマイン」は、フルートの柔らかな音色を添えて切なく優しく、「黄昏ギター」はミドルロックバラードの力強い曲調に、DURANの弾くスライドギターが完璧に寄り添う。そしてみんな大好き「Progress」では、メロディをたっぷりと溜めて歌い、耳に手を当て歓声を要求する、スーパーボーカリストがそこにいた。全ての音と動作から、喜びと確信がにじみ出ている。

 グッズ売り場に、みんなが聴きたそうな曲が10曲掲示されてます。聴きたいと思う曲に100円リクエストしてください。多かった曲をセッションします。ーーこのツアーのお楽しみコーナー、名付けて「いきなりリクエスト」。通常は3曲だが、今日は1曲プラスした特別仕様だ。バンマスでベースの坂本竜太を相方に、ソファに座ってダベりながらのセッションはとにかく自然体で、「フォノスコープ」がドラマー・FUYUが叩くカホーンで軽快なアコースティックファンクに変身したり、「ヒットチャートをかけぬけろ」ではサックスのJuny-aにダメ出ししてやり直させたり。「夜空ノムコウ」が、Tocchiの吹くユーフォニウムのおかげでまるでクラシック楽曲のように聴こえたり、「イジメテミタイ」では、スガとDURANのアコギバトルが白熱した挙句、「やっぱり無理あるね」と大笑いしたり。メンバーと楽曲の新たな表情を同時に楽しめる好企画、今後もぜひ見てみたい。

 「am 5:00」で幕を開けたライブ後半は、アルバム曲と代表曲を混ぜ合わせ、よりディープなスガ・ワールドの深奥へ。「黄金の月」は、22年の年輪を重ねて洗練を極めた都会の夜のファンクとなり、「ひとりごと」はより儚くメロディアスに、青春期の諦念と閉塞感をアコースティックギターの柔らかいグルーヴで包み込む。そして珍しく長い時間を費やし、今は亡き父親との思い出を語ったあとに歌った「深夜、国道沿いにて」は、幼い日の記憶を元にした特別な1曲として、ひときわ哀切な印象を残してくれた。儚いもの、過ぎてしまうもの、二度と戻っては来ないもの。だからこそ大切なもの。スガ シカオの歌詞がいつまでも色あせず響き続けるのは、そうした感情を丁寧に歌い込んできたからだとふと思う。

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