BiSHは真の意味で“パンク”となったのか? 『アメトムチ』プロジェクトと新ALで見えた新たな一面

BiSHは真の意味で“パンク”になったのか?

 BiSHは“楽器を持たないパンクバンド”というキャッチコピーを掲げて活動しているが、彼女たちのどの辺りがパンクなのだろうか? アナーキーで、放送コードを無視する過激な歌詞を歌うから“パンク”なのだろうか? 全力でライブパフォーマンスをするから“パンク”なのだろうか?

BiSH / 遂に死 [OFFiCiAL ViDEO]

 おそらく一つの要素を指して、“パンク”と言っているのではない。複合的な要素が絡まるからBiSHのパンク/オルタナ性が浮かび上がる。平たく言えば、音楽ジャンルとしてのパンクと、精神性としてのパンク、両方を兼ね備えているからこそ、BiSHは“パンク”と言えるのだろう。

 ところで、バンドの場合、全てのバンドメンバーがアイデアを出しながら楽曲を作っていくが、その作業に入る前にその骨格を作る人物がいることが多い。Nirvanaならカート・コバーン、マキシマム ザ ホルモンならマキシマムザ亮君のように、楽曲の屋台骨を作る人が一人いるわけだ。そして、バンドの場合、それは“歌う人間”が担いがちだ。歌う人間が自らのメッセージを放つべきという価値観が支配的だし、自分が書いた言葉を全力で歌うからこそ、エモーショナルに表現できるという考えが根強い。パンク、ロックというジャンルであれば、なおのこと、そういう考えが色濃いのではないだろうか。

BiSH / STiCKS [全曲試聴MOViE]

 BiSHはメンバーが作詞を担当することが多い。7月3日にリリースされる最新アルバム『CARROTS and STiCKS』収録曲「CAN YOU??」はアイナ・ジ・エンド作詞、「FiNALLY」はセントチヒロ・チッチ作詞である。しかし、過激な歌詞で話題になった「NON TiE-UP」(2018年)は、松隈ケンタ・ JxSxKが作詞を手がけている。つまり、一般的なバンドとは違う形で、曲を作っているわけだ。

BiSH / NON TiE-UP[OFFICIAL VIDEO]

 注意してほしいのは、ここで、ボーカルが言葉を紡いでいない曲が幾つもあることを指摘して、BiSHの音楽性に懐疑の目を向けるつもりではないということだ。むしろ、逆だ。ここで言いたいのは、それを踏まえても、BiSHの音楽性が損なわれることはないということ。パンクバンドを自称する様々なバンドと比較しても、その“パンク性”は際立っているという事実なのだ。

 では、なぜそのように感じられるのか? ベースにあるのは、サウンドプロデューサーである松隈ケンタの妥協なきクリエイティブコンロールであろう。録音や音のミキシングにも相当なこだわりを持っており、先人のパンク/ロックバンドが持っている空気感を上手にパッケージ化している。アルバム『CARROTS and STiCKS』に収録されている「FREEZE DRY THE PASTS」は、耳が張り裂けそうな、ノイズに近い音が展開される。特にシンバルの音はかなり大きくミックスされており、破裂音に近い音がスピーカー越しに響きわたる。「優しいPAiN」はドラムのリズムがよれよれになっており、良い意味で音やリズムに秩序がない。現代音楽が抱え込みがちなデジタル感を排斥することで、オールドパンクやオルタナティヴロックの空気感をパッケージ化している。パンクの文脈を意識して音をデザインしているからこそ、BiSH独自の音楽性が創出される。

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