SCREEN modeが語る、ノンタイアップ作で深化したアーティスト性 「新たな一面が見せられた」

SCREEN modeが語る、深化したアーティスト性

 SCREEN modeがまたもや進化した。いや、深化と呼ぶべきだろうか。音数をぐっと減らし、アコースティックギターを大々的にフィーチャーした、耳に心地よく心に優しい全6曲のポップチューン。勇-YOU-の歌声のうまみを最大限に引き出すため、こだわり抜いたアレンジとボーカルディレクションが生んだ、本当の意味でハイレゾリューションを追求するミニアルバム、それが『約束の空』。より親密性を増したメッセージが聴き手の心にそっと寄り添い励ましてくれる、アニソンファンのみならず注目すべき作品の登場だ。(宮本英夫)

アニメじゃなくて自分たちを説明していくものが必要(雅友)

ーーデビュー5年の集大成であり新たな出発でもあった『1/1』から1年半ぶり。今回はどんなテーマが?

雅友:まずランティスさんから「ノンタイアップのミニアルバムを」というお話をいただいて……「WRIGHT LEFT」はTVアニメ『文豪ストレイドッグス』第3シーズン挿入歌ですけど、放送されるまでは言えないので、見え方的にほぼノンタイアップみたいな感じです。その中で、6年目に何をやるのか? ということを考えさせられる制作になりましたね。

ーー2年半前のミニアルバム『SOUL』と、状況的には似てますかね。あの時もノンタイアップがテーマだった。

雅友:『SOUL』の時は、勇-YOU-がブラックミュージックが好きなこともあって、それをやればよかったというか、ソウルやR&Bのフォーマットにのっとった曲をそのままやる感じで作ったんですけど。今回も基本的にそういう部分はありつつ、今までアニメの曲を作ってきた中で……アニメの曲って作品を説明しなければいけない所があって。今までSCREEN modeはその比率が大きかったんですけど、今回2枚目のノンタイアップのミニアルバムで何をやるか? と思った時に、アニメじゃなくて自分たちを説明していくものである必要があるんじゃないかというのがまずあって。

ーーはい。なるほど。

雅友:シンガーソングライターの人が書く歌詞は内省的というか、自分のことを言ってるものが多いですよね。そういう曲がSCREEN modeにはなかったので、それをやりたいというのがありました。あとサウンド的には……いくつか理由があるんですけど、とにかく音数を減らしたいと。リアルサウンド向けに話すと、今の配信、Spotifyとか、ランティスで言うとアニュータとか、ラウドネス規格というもので音量が決まっていて、今までのCDの作り方だと配信アプリ上で音量が下がる場合があるんですよ。そうすると、めちゃめちゃお金を使ってハイレゾだなんだとやっても、最後に下げられちゃうのは無意味だなと思っていて。で、ラウドネス値が上がる大きな要因はエレキギターとシンバルがあるんですね。ジャンジャン鳴ってるシンバルとズンズン言ってるエレキギターを減らしたアレンジで、音量を下げずに聴かせるのが、配信時代の本当の意味のハイレゾなんじゃないか? と、このアルバムとは無関係なところで僕個人として思っていたことだったので。最近のSpotifyの上位に来る曲って、めっちゃ音数少ないんですよ。ラウドネス規格がどうとか、若いバンドマンが考えてるとは思えないですけど、たぶんみんな直感的にそうなってるんだと思う。

ーーそれはすごく興味深い話です。

雅友:もう一つは、アニメソングって音数が多くてドン! と派手なものが好まれていて、それがダメというわけではないですけど、細かいところ、たとえば歌の切れ際の息の使い方とかがマスキングされてしまう部分があって。でも音数を減らすことによって、今までマスクされていたところが剥き出しになる。この間、目黒のBLUES ALLEY JAPANでアコースティックライブをやらせていただいた経験もあって、もっと勇-YOU-の歌と僕のギターと、メロディそのものを剥き出しにして、音楽に説得力を持たせたいなという思いが強くあって。そこに「ノンタイアップのアルバムを作らない?」という話が来たので、これは試せるぞということになったんですね。6年目ということで、アニメに頼るだけじゃなくて、音楽の核の部分の底上げをちゃんとしたいと思ったのが、今回のアルバムがこういう音になった理由です。ただ「WRIGHT LEFT」はその対極にあるものとして、極端に派手にしました。

勇-YOU-:浮いてるもんな(笑)。

ーーボーナストラック的な感じですよね。聴き手からすると。

雅友:そう。やるならそっちに振り切ろうと思ったので。

ーー勇-YOU-さんはどんな思いがあったんですか。今回の制作には。

勇-YOU-:音の話は今雅友さんが言った通りで、『SOUL』の時は僕が好きなブラックミュージックのルーツを打ち出すことが主軸だったんですけど、今回は自分の思いの中のルーツを打ち出すべきなのかなと感じたんですね。そこで表題曲の「約束の空」を作るにあたって、自分の中のルーツを考えた時に、パッと思い浮かんだのが父親の存在だったんですね。ざっくり言うと、僕の父親は若いうちに認知症になってしまって、進行が速くて、今はもう話せない状態なんです。そうなってから「もっといろんなことを話しておけば良かった」という後悔もあって、どんどん小さくなる体を見ていると、悲しい気持ちもあるんですけど、その背中を見た時に、言葉ではないですけど、父親が僕に託しているものがあるというか、「これからはおまえに頼んだぞ」というようなエールを放っているような気がしたんですね。その気持ちを僕と父の間の約束に置き換えて、歌にできたらいいなと思ったのが最初のきっかけです。子供は親の背中を見て育つと言うじゃないですか。自分が大人になってからも、親は背中で教えてくれるんだと思うと、これからも頑張っていかなきゃという強い気持ちをあらためて教えてもらったような気がするし、それに対する感謝を歌いたいと思ったのがきっかけでした。

ーーはい。

勇-YOU-:そこで僕の気持ちをなるべく細かく作詞家の松井五郎さんに伝えて、言葉に変えてもらいました。自分で歌詞を書く選択もあったかもしれないですけど、ひとりよがりになってしまう気がして。曲は聴いてくれた人のものでもあると思うから、自分と父親のことを歌った楽曲ではあるけれど、同じ境遇にいたり、たとえば離れ離れになった恋人だったり、その人それぞれの大切な人を思い浮かべて聴いてほしいなと思ったので、松井さんに歌詞を書いてもらいました。

ーー僕は男女のラブソングだろうと受け止めてました。今の話を聞くまでは。

雅友:そういうふうにも取れるように、ということは松井さんに伝えたので。〈もう名前を呼んでも/応えてくれる君はいないよ〉とか、的確に表現してくれたと思います。

ーーこの曲、作曲クレジットがSCREEN modeになってます。珍しいですね。

雅友:今までの経緯で、「MYSTERIUM」(2017年)ぐらいから、勇-YOU-の音域を広げる作業をずっとやってきて、去年のシングル『GIFTED』のカップリング「Make New STORY!」は女性キーぐらい高いところまでいっていて。そこで、音域が広がることによってどのへんがいい感じで出るのか? ということは、やってみないとわからない部分があって、一緒に作ったほうがいいかなと思ったのと、6年目ということで、ランティスさんも僕らに任せてくれる部分が増えてきたこともあって、できるようになったんですね。それでスタジオに入る時に、各パートの出だしぐらい考えておいて、「このへんで高い音出したいんだけど」って、僕がギターを弾いて、勇-YOU-が歌って、ジャムってるみたいな感じになって、自然にすごく高い音が出てたみたいな感じですね。「約束の空」の音域は2オクターブ近くあるんですよ。なかなかですよ。僕には歌えない。そういう意味で独特の感じになったし、まさにSCREEN modeっぽい、勇-YOU-にしか歌えない曲になったと思います。

勇-YOU-:ジャムって曲を作れたのは、すごく楽しかった。僕は18歳から20歳まで、日本工学院で音楽を勉強していた時に、ギターを弾いてもらってジャムりながら曲を作っていた経験があるから、音楽を作る原点に戻れた楽しさもあったし、「意外とファルセット出るな」という発見もあったし。これ以上出ないという限界まで挑戦できたのは新しいところだと思います。

ーー特にストリングスバラードの「約束の空」とロックバラード系の「smile」の2曲は、勇-YOU-さんの歌の表現力が際立ってる。

雅友:僕も「smile」は好きです。特に勇-YOU-の歌詞は、今までで一番頑張って書いた感じがするというか。

勇-YOU-:頑張ったよ(笑)。

雅友:いつもディレクターやプロデューサーと相談して書いていくんですけど、今回はその比率が低いから、勇-YOU-は頑張ったと思うし、僕も好きです。

勇-YOU-:「smile」は悲しいことが起きた友達を励まそうと思って作り始めた曲です。ちょっと前に高校時代の同級生に久々に会った時に、結婚して家庭を持ってる奴はそれぞれの悩みを話したり、僕は仕事の悩みを話したりしてたんですけど、気づけば昔話だったり、くだらないことで笑い合ってる関係が蘇ってきて。それまで僕もけっこう悩んでて、あんまりいいことがなくてへこみがちだったんだけど、友達に救われたということがあったので、友達に向けた歌を歌いたいと思ったのが「smile」を書こうと思ったきっかけになってます。結局いろいろしんどいことはあるけど、友達と会って笑える瞬間があって気持ちがほぐれて、また明日も頑張ろうと思えたりもするし。劇的に大きなドラマはないけれど、ちょっとした笑顔の瞬間があるだけで明日も頑張ろうと思えるのは、すごく素敵だなと思ったので。僕らがライブをやる中でも、ファンの人たちもきっと悩みはあるだろうし、でも「ライブのこの瞬間だけは楽しみたい」と思ってくれてる人が絶対にいると思うから、人生を変えるとかおこがましいことは言えないけれど、へこんでる人に同じ目線で「元気出していこう」って肩を叩くような歌になればいいかなと思って作りました。

ーーあと勇-YOU-さんの歌詞で言うと1曲目「ATTITUDE」も。

勇-YOU-:それは作家さんとの共作で、僕のウェイトはそんなに大きくないですけど。

雅友:この歌詞は僕らの共通の友達に向けての歌です。すごくいい人で、はっきり嫌と言えなくて、いつも貧乏くじを引いてしまう、彼に向けて「頑張れよ」という歌です。

ーーモデルがいるんですね。今回、そういう歌が多い。

雅友:そうなんですよ。最初にお話ししたシンガーソングライターっぽさというか、「約束の空」は自分ですけど、「ATTITUDE」と「smile」は特定の人に向けた歌で、今回はそれを表現したかったんですね。もちろん、勇-YOU-がいつも言ってる「みんなの背中を押す」ということで、その人だけじゃなくみんなに向けて“戦うATTITUDE(姿勢)を手に入れろ”って、大きく背中を押すという意味もあるので、この曲もお気に入りです。2曲目の「Feel good」も作詞家の村野(直球)さんに相談して、「みんなの背中を押す曲」ということで書いてもらいました。

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