中村佳穂、“特別な表現者”としての資質 興奮と開放感に包まれたリキッドルーム公演

中村佳穂、“特別な表現者”としての資質

 「中村佳穂の演奏を見たい!」という観客の期待と声援に後押しされたライブだった。2018年11月にリリースされたアルバム『AINOU』のスマッシュヒット以降、さまざまなメディアで取り上げられ注目された中村だが、東京で演奏する機会は限られていた。『AINOU』リリース後、バンド形態での単独公演は2018年12月に下北沢のライブハウスclub251で行われた1度のみ。『人間交差点』や『GREENROOM FESTIVAL '19』(ともに2019年5月)などの音楽フェス出演、いくつかのライブハウスでの演奏などはあったものの、実際に中村を見たことのない東京の観客はまだ多い。

 7月13日に恵比寿リキッドルームで行われた中村佳穂BANDのライブは、大きなキャパシティの会場で行う単独公演という意味では、『AINOU』に反応した音楽ファンが初めてしっかりと演奏を聴く機会であり、この日に初めて中村を見た観客もかなり多かったのではないか。チケットはさっそくソールドアウトし、期待度の高さをうかがわせる。当然ではあるが、キャリアの長いミュージシャンになるほど「初めてライブを見る観客」の割合は減っていくほかない。まだ若く、キャリアをスタートさせたばかりの中村にとっては、ひとつひとつのライブが新たな観客との出会いの連続であり、新鮮さに満ちた実験の場だ。

 恵比寿リキッドルームにぎっしりと集結した観客。客電が落ち、メンバーがステージに現れたと同時に起きた声援の大きさからも、会場を訪れた音楽ファンの期待が伝わる。ついに本人が見られる、という興奮とどよめき。中村はキーボードの前に陣取ると、おそらくはその場で思いついた内容を即興で歌っていく(セットリストには「アドリブソロ」とだけ書かれている)。しかし、とてもアドリブとは思えないほど、淀みなく湧き出てくる言葉やメロディには毎回驚いてしまう(彼女はこの超絶的な技能をどこで会得したのだろうか?)。ライブでは恒例となるアドリブソロのピアノ弾き語りは、実は1曲目に演奏される「GUM」へとつながっているのだが、中村がそれまでのアドリブからごく自然に〈wow、喋らないか 語らないか〉と「GUM」の印象的なフレーズを歌い出し、観客がその仕掛けに気づいてわっと歓声を上げる瞬間は実にみごとだった。ついにライブが始まる! という興奮。これぞ中村佳穂と呼びたい演奏、彼女にしかないスタイルがさっそく全開となる。

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