椎名林檎の楽曲が引き出すバンド表現の新たな魅力 ブルエン、UNCHAINのカバーから考える

 BLUE ENCOUNT(以下、ブルエン)が9月11日にリリースした最新シングル『バッドパラドックス』に、椎名林檎「ギブス」のカバーを収録した。ブルエンが他アーティストのカバー曲を作品として発表するのは今回が初めてである。

BLUE ENCOUNT『バッドパラドックス』(通常盤)

 ブルエン版「ギブス」は、田邊駿一(Vo/Gt)の地声が深く響く音域までキーが下げられていて、テンポは原曲よりやや遅い。ピアノやストリングスは入れず4ピースのみによる演奏となっており、重心の低いバンドサウンドで〈あたし〉の内側に渦巻く熱情が表現されている。序盤では抑えられていたボーカルが1番サビで一気に爆発して以降、クライマックスに向かってバンドサウンドがどんどん膨らんでいく、というダイナミクスの付け方は原曲を踏襲したもの。原曲との相違点は様々あるが、中でも印象的だったのはアウトロだ。ギターのリフがフェードアウトしていく形で終わる原曲に対し、ブルエン版はドラムが16分で刻んだあと、ボーカルが再び〈ダーリン〉と歌うことで幕を閉じるアレンジになっている。このようなアプローチをしても生々しくなりすぎないのは、男性ボーカリストが女性目線の歌詞を歌う上でのメリットなのかもしれない。

 バンドによる椎名林檎のカバーといえば、以前、UNCHAINの「丸の内サディスティック」が話題になった。あの曲が当時話題になった理由は、端的に言うと、ジャズやソウルミュージック、フュージョンを根に持つこのバンドの音楽的な造詣の深さや、椎名林檎というアーティストに対するメンバーからのリスペクトがアレンジによく表れていたから。そのうえで、実際完成した曲のクオリティが非常に高かったからだ。彼らの演奏するカバー曲は好評を博し、以降、「Love & Groove Delivery」という名前でアルバム化。「丸の内サディスティック」はその第1弾にあたるアルバム『Love & Groove Delivery』(2013年)に収録された。

 2013年から2015年にかけてカバーアルバムとオリジナルアルバムの両方を3年連続で発表したあと、2016年にはリメイクベストアルバム『10fold』をリリース。既存曲を大胆にアレンジするなかで、“人を踊らすためには、「音を抜いてナンボ」”という見解に辿り着いたUNCHAIN。先に挙げた「丸の内サディスティック」、そして『Love & Groove Delivery Vol.2』(2014年)収録の東京事変カバー「能動的三分間」に、『Love & Groove Delivery Vol.3』(2015年)収録の椎名林檎カバー「本能」――と彼らのカバー曲を聴いていくと、「音を抜いてナンボ」の精神を読み取ることができ、つまり、カバー曲を演奏すること自体がバンドの新たな魅力を引き出すきっかけのひとつになったのだということが窺える。また、椎名林檎および東京事変の曲を毎作カバーしているのは、彼らが椎名林檎というコンポーザーから多大なインスピレーションを受けている証だろう。

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