fhánaが考える、音楽における熱量の大切さ 「本質が宿った作品が多くの人を引き寄せる」

fhánaが語る、音楽における熱量の大切さ

 fhánaが、8月7日に14枚目となるシングル『僕を見つけて』をリリースした。1年半ぶりとなる今作の表題曲は、佐藤純一が「王道感のある美しい曲」を意識して制作。また、同時期に起こった佐藤自身の体験が結びついたことで、人の心を動かすような“本質”を伝える作品となった。インタビューでは、楽曲の制作背景から企画ライブ、『Sound of Scene #01”curated by fhána』を経た『fhána “where you are Tour 2019”』について、さらに現在の音楽シーンに対する考えについても語ってもらった。(編集部)

本質が宿った作品が多くの人を引き寄せる

ーーベストアルバム『STORIES』をリリースし、『fhána 5th Anniversary SPECIAL LIVE「STORIES」』を終えて、1発目のシングル作品がリリースされました。制作にあたって、どこか仕切り直し的な気持ちはあったのでしょうか。

佐藤純一(以下、佐藤):ベスト後1発目というより“1年半ぶりのシングル”という意識は強かったと思います。昨年後半からは、並行する形でTVアニメ『ナカノヒトゲノム【実況中】』の音楽制作が始まっていたので、表題曲はその流れで作ったところもありますし。ただ、結果的には仕事以外の出来事も重なって、より思い入れのある曲に仕上がりました。

 1年半ぶりのシングルなので「エンディング曲だけど『星屑のインターリュード』みたいなノリのいい曲もアリじゃない?」という話もあったんです。でも、ベストを踏まえたこのタイミングだからこそ、どっしり構えた王道感のある美しい曲を出した方がいいんじゃないかという気持ちはありました。

ーー直近のイベントである主催ライブ『“Sound of Scene #01”curated by fhána』を見たんですが、佐藤さんのいう“どっしり構えた”感じがかなり伝わってきたのを思い出しました。

towana:『“Sound of Scene #01”curated by fhána』はセットリストがそうだったかもしれませんね。タイアップ曲をいっぱい入れるというよりは、andropさんのお客さんもいることを意識して組んでいた気がします。

ーーライブパフォーマンスにおいても余裕が出てきたように感じましたよ。

yuxuki waga(以下、yuxuki):昔より余裕はもちろん出ているんですけど(笑)、『fhána 5th Anniversary SPECIAL LIVE「STORIES」』が特段濃いライブだったので、あれを経てグッとレベルアップした部分は間違いなくあると思います。

kevin mitsunaga(以下、kevin):僕自身、パフォーマンスしていて以前よりお客さんの熱量を感じるようになりましたし、一人ひとりの顔が頭に入ってくるようになったというか。ステージの上から全体をぼやっと見ていたのが、細かいところにフォーカスを当てられるようになった気がするんです……って、なんでtowanaさんはニヤニヤしているの?(笑)。

towana:いや、これまでよりも落ち着いて踊れるようになったのかな、と思って(笑)。

kevin:間違いなくそうですね。寝ていたとしても音が流れたら動くくらいには振りが入ってます。実際にシャッフル再生していて「青空のラプソディ」が流れると、身体がピクッって反応するんです。

towana:「踊らないと!」みたいな(笑)。

ーーすごい条件反射が身についてますね(笑)。佐藤さんはどうですか?

佐藤:確かに、ライブにおいても何においても、今までより上のステージ、レイヤーに行きたいという自覚は芽生えています。fhánaって、6年目だけど良い意味で新人感が抜けない、初々しい感じがあるバンドだと思っていたんですけど、気づいたらそれなりの実績を作れていて、周りからも「fhánaさんだ!」と喜んでもらえるようになっていたんです。

ーーどのタイミングでその変化に気づいたんですか。

佐藤:個人の仕事が増えてきてからですね。一つのレーベルの中で同じスタッフとやっていると感じにくいんですけど、他のレーベルや普段接しない方々とお仕事をすると、自分が思っているよりリスペクトされているんだなと(笑)。だから責任も感じて、現状に満足せずにもっと上を目指さないとなって。

ーーそんな意識が芽生えたうえでリリースされるシングル『僕を見つけて』ですが、表題曲は先ほど話にも挙がったTVアニメ『ナカノヒトゲノム【実況中】』のED主題歌です。佐藤さんが全体の音楽を担当するからこそ、曲の作り方も変わったのでは?

佐藤:全体を見ていたからこそ、最終的には深く入っていける曲になったと思います。最近よく考えるんですが、CDもいろんな人が関わってくれて、いろんな人の手に渡りながらみんなに届くわけですし、それは映画やアニメも同じことが言えるんですけど、大小問わずそれらすべてのクリエイションって、フタを開けてみれば人間なんですよね。そして人の心を動かすコンテンツの中心には、一人もしくは数人くらいの熱量の高いコアメンバーがいるなと。

 そういう意味で「僕を見つけて」は、18年間一緒に暮らしていた猫が制作途中に亡くなったりもして後半二分の展開が出てきて、歌詞もレクイエムとしての意味合いを帯びてきた。個人的な体験があったからこそ、それが色濃く作品に宿ったんじゃないかと思いますし、結果的にそういう本質のようなものに少し触ることができたというか。

ーー本質、ですか。

佐藤:最近、ボーカルアルバムに参加してくださった緒方恵美さんと仲良くさせていただいていて、色んな人生経験を話してもらうんです。そのなかで、僕の大好きな『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、エヴァ)の話もしてくれたんですけど、一番印象に残っているのは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で、ラストにシンジが綾波(レイ)を救い出すシーンについてのエピソードですね。緒方さんは「14歳の心を失わないようにするのが自分の存在意義」だと信じてこれまでやってきたんだそうです。だけど、長い役者人生のなかでそれは間違いなんじゃないかと思うこともあった。でも『破』で全身全霊を出し尽くしてそのシーンを録ったとき、庵野さんが『君が14歳のままでいてくれたから、このシーンを録ることができた』って声をかけてくれた」と。

ーーめちゃくちゃ良い話ですね……。

佐藤:このシーンは緒方さんと知り合いになる前から、すごいと思っていたんです。そしたらやっぱりそういう背景があった。実際に凄まじい熱量の現場だったからこそ、人を動かす力を持っていたんだと確信しました。「こういうマーケティングだから、こうしたらお客さんがいっぱいつくかもしれない」みたいな方法論ではなく、その場に置いては、本当にそれが起こっていた。そういう本質が宿った作品が多くの人を引き寄せるものなんだと。エヴァについても、庵野秀明さんという中心にいる一人の人間の圧倒的な熱量があったからこそ、緒方さんや役者さんもスタッフもお客さんもすべてを巻き込んで大きな渦が生まれたんだなと。

ーーそうして佐藤さんが本質に近づこうとして生まれたこの曲ですが、ラスト2分の展開はどういう流れで生まれたんでしょうか。

佐藤:自然に出てきちゃった、としか言えないんですよね。4分半くらいの曲にしようと思っていたんですけど、DAWでアレンジを考えながらピアノを弾いていた時に、手が勝手にフレーズを弾き始めて、後半の2分ができたんです。さすがに自分でもやりすぎかなと思って、音源ではフェードアウトして、ライブでフルバージョンが聴ける形でもいいかも、とみんなには話していたんですが、まずフルサイズの歌詞が上がってきたときに、5分までは永遠の別れを歌っているのに後半2分では再会について歌っていて。“物理的にはもう会えないし、帰れないけど、精神的にはまた会うことができる”という祈りを込めたものになっていて。さらにベース、ドラム、ギター、ストリングスと楽器をレコーディングしたら演奏の熱量も凄くて。「これはフェードアウトできない」と決断しました。

ーーtowanaさんはこういった変則的な構成の曲を受け取ってどう思いましたか?

towana:この曲のレコーディングはバタバタしていて、当日に歌詞をもらって、そこに歌とメロディをどう当てはめてくかに集中していたので、あまり違和感はなかったです。fhánaでこういう曲、他になかったですっけ?

佐藤:「星屑のインターリュード」とかは近いかな。

ーー展開としては確かに近いですが、歌モノとして変わると、ボーカリストとしては印象が違うのでは?

towana:単純に7分の曲を歌うのは大変ですね(笑)。歌詞の内容が後半では祈りや再会を願うものに変わるので、ライブでもMVでもその感情を私の立ち姿で表現したいなと佐藤さんには提案しました。

佐藤:MV撮影時に「後半2分は楽器隊が熱く演奏しているけど、私は微動だにせず立ってる方がかっこいいと思うんです」と言われたのを覚えています。

ーーなるほど。「World Atlas」はThe Beatles「Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band」が元ネタのひとつにあったわけですが、「僕を見つけて」もThe Beatles~Oasisのような王道のUKロックっぽさを感じました。

佐藤:「Whatever」ですね(笑)。

ーー言わないようにしていたのに!

佐藤:(笑)。冗談半分でスタジオで「Whatever」を弾いて遊んでいるときがあって、頭の中に残っていたところはあると思います。とはいえ、「Whatever」のストリングスよりはThe Beatlesのフィル・スペクターがプロデュースを手掛けた作品ーー“ウォール・オブ・サウンド”っぽいサウンドを意識しましたし、インドっぽい音階も使っていたりとThe Beatlesの雰囲気に近いですね。実は、ストリングスアレンジ自体が最近、すごく楽しくなってきていて。

ーー意外ですね。これまでは誰かに委ねることも多かったじゃないですか。

佐藤:自分はメロディーメイカー7割、あと3割がアレンジャーってパラメーターの能力値だと思っているんですけど、ストリングスってカウンターメロディーなんですよね。主旋律を歌うボーカルがいて、ストリングスがずっとカウンターメロディを奏でていて、要はメロディーを沢山書けるんです(笑)。だからメロディーメイカーの自分としては、感情を乗せやすいというか。そういった経緯もあって、MVにもストリングス隊に出てもらったんです。

fhána「僕を見つけて」(TVアニメ『ナカノヒトゲノム【実況中】』エンディング・テーマ)MUSIC VIDEO

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