『温泉むすめ』プロデューサー橋本竜が語る、地方活性化プロジェクト新展開と2次元コンテンツの今

『温泉むすめ』Pが語る、プロジェクトの新局面

 音楽やイベント活動を通して地域活性に取り組むクロスメディアプロジェクト『温泉むすめ』が、新しい局面を迎えている。日本全国の温泉地をモチーフにしたキャラクターは120体を突破し、温泉地や地方都市で開催するイベント/啓蒙活動が評価されたことで2019年6月には観光庁の後援が決定。今年に入ってからも、新しく小野川温泉や湯村温泉といった温泉地ともコラボするなど、その規模を拡大中だ。

 10月16日には『温泉むすめ』の楽曲を余すところなく収録したコンプリートアルバムが発売。SPRiNGSの楽曲をまとめた〈SPRiNGS SIDE〉、SPRiNGSのライバルユニット5組の楽曲をまとめた〈UNIT SIDE〉、ソロ曲をまとめた〈SOLO SIDE〉の全3形態、既発曲24曲、CD未収録楽曲10曲、新曲5曲を加えた全39曲のフルボリュームとなっている。

 各温泉地とのコラボや観光庁の公認、これまでの集大成的なコンプリートアルバムの発売と、ひとつのターニングポイントを迎える『温泉むすめ』。同プロジェクトの生みの親/プロデューサーの橋本竜氏に、2019年の活動を振り返りながら『温泉むすめ』の音楽やライブのこだわり、2次元コンテンツビジネスの今を語ってもらった。(編集部)

温泉地の経済効果向上と観光庁の後援

「SPECIAL YUKEMURI FESTA in 箱根(小田原)」の模様

ーーまずは『温泉むすめプロジェクト』全体の2019年の動向について。今年は引き続き各地方の温泉地でのイベントを盛んに行っていますし、小田急ロマンスカーを貸し切った「SPECIAL YUKEMURI FESTA in 箱根(小田原)」といった企業とのコラボレーションも増えて、プロジェクト自体の世間への浸透度がさらに増したように感じます。運営側としての実感はいかがですか。

雲仙温泉イベントの模様

橋本竜(以下、橋本):今年上半期のいちばん大きなトピックは、6月に『温泉むすめプロジェクト』が観光庁さんの後援と公認をいただいたことです。観光庁がこういった民間のプロジェクト全体に対して後援を行うのはこれが初なのですが、今回我々が認めていただいた理由のひとつとして、地方への送客実績が挙げられます。『温泉むすめ』では今まで地方の温泉地を中心に40カ所ほどでイベントを行ってきまして、ありがたいことに総計で1万人以上のファンの方々にお越しいただきました。例えば2月の雲仙温泉、9月の飯坂温泉のイベントでは、各地元の方にも「過去最高の経済効果があった」と評価をいただいています。

草津温泉トークイベントの模様

 また、草津温泉とは、群馬県を盛り上げるための「群馬デスティネーションキャンペーン」の一環として、今年の2月から6月にかけて計4回のイベントを実施しました。そちらにも毎回数百人単位のお客さまにお越しいただいて、来場者アンケートによるとその7割のお客さまが現地に宿泊もされたそうなんです。温泉地のいちばんの望みは、やはりお客さまに宿泊していただくこと。我々もこれまで様々な施策やトライ&エラーを繰り返してきた結果、ようやくファンの方に温泉地を楽しんでもらえる形が整ってきたように感じています。

『温泉むすめ』キャラ一覧

ーーキャラクター数も順調に増えて、10月1日には120番目の温泉むすめ・小野川小町(CV:村上奈津実)が公開されました。

小野川小町

橋本:これまでは弊社で各温泉地の特徴を調べて独自にキャラクターを制作していたのですが、今は各温泉地の方から「キャラクターを作ってほしい」というご依頼をいただいて、地域の方々と話し合いながら、各地の課題に合わせて一緒にキャラクター作りを行うケースが増えました。その一例となるのが、今回の発表に合わせて山形県米沢市の観光大使に就任した温泉むすめ・小野川小町です。こちらでは読売新聞社さんが運営する「地方創生」をテーマにしたクラウドファンディングサイト「idea market」を活用しまして、小野川温泉を盛り上げるためのクラウドファンディングをサポートしています。

 

 また、そういったケースのいちばんの成功例が、今年9月に湯村温泉(新温泉町)観光大使と特別観光大使に就任した温泉むすめ・湯村千代(CV:高木美佑)です。彼女の場合は、キャラクターの設計の段階から、名前・性格の部分にいたるまで、現地の皆さんとお話をしながらキャラクター付けを行うことで、より地域の方々に愛されるキャラクター作りが実現できました。『温泉むすめ』たちは各温泉地に宿る神様という設定なのですが、各温泉地に必ず建てられている温泉神社で祭られている神様ではないですけど、地域の皆さんとキャラクターの創造からご一緒することで、今はゆるキャラ以上に地域に土着化したキャラクター作りができているように感じます。

湯村温泉(新温泉町)観光大使と特別観光大使に就任した温泉むすめ・湯村千代(CV:高木美佑)

ーーキャラクターと温泉地のひも付けがより強化されているんですね。

橋本:ただ、今後のキャラクターの増加ペースは緩やかになると思います。以前は、今年9月でサービスが終了したアプリゲーム『温泉むすめ ゆのはなこれくしょん』に興味を持っていただくために、あくまでもゲームのキャラクターを先行で見せる意味合いで、次々と新キャラクターを公開していたんです。ですが、状況の変化により、ゲームのために新キャラクターを作り出すことを止めまして、そこからは地域の方々と話し合いながらキャラクター作りを行うことが多くなりました。今も全国各地の温泉地の方から毎日のようにご相談の連絡をいただいていますが、キャラクター作りは魂を込めてひとりひとり大切に行わなくてはならないので、順次お話をさせていただいている状態です。

飯坂真尋

ーーこれまでの実績があるからこそ、より多くの温泉地からの理解も得られるようになったわけですね。

橋本:『温泉むすめ』のキャラクターはライセンスフリーかつロイヤリティーフリーのため、温泉地の皆様には無償で使っていただけますので、各温泉地で新しいツールとして活用が進んでいる状況です。実際に今はキャラクターが存在する温泉地の半分に当たる60カ所の温泉地とお話をしていて、そのうち40カ所では等身大パネルが設置されています。最近は温泉好きの方から「どこに行っても温泉むすめがいる」と言われるのですが(笑)、立ち上げから2年半でここまでこれるとは正直思っていませんでした。それだけ地域では観光を盛り上げるためのツールが求められていたようです。もちろん我々の送客力はまだまだではありますが、20〜30代の若い男性の方が足を運ぶことで、温泉地の皆様のモチベ—ションアップに繋がっていけばと思っています。

ーーなかでも福島の飯坂温泉の取り組みについては、『温泉むすめ』のオフィシャルサイトでも「飯坂温泉観光協会からの手紙「飯坂真尋ちゃんが射してくれた光」」というトピックで紹介されていましたが、「温泉むすめ」を通じた地域の活性化の事例として素晴らしいものに感じました。

橋本:ありがとうございます。弊社では各温泉地さまからお手紙という形で生の声をもらうようにしていまして、過去にも有馬温泉、雲仙温泉からのお手紙を紹介してきました。『温泉むすめ』はいままでのIPとは違って、設計やコンセプトが特殊ですので他の温泉地に実例を知っていただくだけでなく、ファンの方も実際に現地でどのように受け入れられていったのかを気にされているようなんです。そこでキャラクターとコンテンツが地域にどれだけ愛されているかを見ていただきたいと思い、お手紙の公開という形を行っています。

飯坂真尋パネル

 飯坂温泉ではすでに飯坂真尋(CV:吉岡茉祐)のパネルが20体以上飾られていて、地元の新聞やテレビにもよく紹介していただいてますし、現地の誰に聞いても「真尋ちゃん」とわかるぐらい、地域のキャラクターとして受け入れていただいています。9月には現地で福島市長も参加した飯坂温泉特別観光大使の就任イベントを行ったのですが、イベント参加前に飯坂温泉さんのアイデアで「真尋タイムス」という形でお手紙の内容を印刷してファンの方に配っていただいたんです。そこで飯坂温泉と『温泉むすめ』がコラボした過程を知っていただくことで、応援しようという気持ちがより強くなればと思いました。

南紀勝浦温泉の温泉大使に就任した南紀勝浦 樹紀(CV:吉岡麻耶)

ーー過程を知ることでよりキャラクターや地域にも愛着が湧く、と。

橋本:ファン心理にもいろいろあると思いますが、我々は「声優を推す」「キャラクターを推す」に加えて「地域を推す」という第3のファン心理を皆さんに抱いていただきたいんです。就任イベントは地域の皆さんの好意があって辿り着いたストーリーですし、キャラクターと地域が持つそれぞれのストーリーをクロスさせて楽しんでいただくきっかけを与えるのも、我々の役割ですから。

大分トリニータマスコットキャラクターのニータンと温泉むすめ 九州選抜

ーーほかにも、7月には「温泉地検定」の公式応援キャラクターに温泉むすめが就任、9月には温泉と食とウォーキングを通じた新たな体験を推進する「ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構」への参加も発表されました。

橋本:「温泉地検定」に関しては、実は自分が立ち上げた検定事業でして、社団法人の代表理事も自分が務めています。「ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構」は様々な企業が参画している社団法人でして、我々と同じく地域創生に力を入れていらっしゃるんですね。そこでまさに「温泉地検定」的なことを行おうとされていたらしいのですが、先に自分が立ち上げていたので、であれば提携しようということになりました。「ガストロノミーツーリズム」は「食とウォーキング」、こちらは「コンテンツ」ということでアプローチは全然違いますが、共同でイベントを開催できればより多彩なツールを提供できると思うんです。我々はスタッフが4人のベンチャー企業ですが、向こうは資金力も人もネットワークもある大企業が母体ですから。

コラボグッズ・有馬温泉カレー

ーーたった4人で『温泉むすめ』の全事業を管理・運営されているのもすごいことですね。

橋本:我々は製作委員会のような形ではなく、1社提供ですべての権利を持つこと、それによりいろんなオファーをいただいたときに即座に対応できる座組みを作るというのが、立ち上げ時から考えていた今の時代に相応しいビジネスモデルでもあります。例えば製作委員会が組まれている場合、缶バッジ一個作るにしても、関係各社に確認するために2〜3週間ぐらいの時間が必要になります。ですが、それだけ時間がかかってしまうと、せっかく地域の方が「温泉むすめを使って何かをやろう!」と思っても、打ち返しの速度が遅れたことにより、現地のモチベ—ションが下がってしまいます。ですから我々は地域の方にどんどん挑戦してもらえるような体制を整えています。面白いと思ったらまずはやってみましょう、と。そうすることで経験も積めますし、地域の方のキャラクターを使ってみたいという気持ちを何よりも大切にしたいんです。

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