くるりと『京都音博』の“すごさ”を改めて実感 兵庫慎司による全アクトレポート

くるり『京都音博』全アクトレポ

 2019年9月22日京都市下京区梅小路公園芝生広場、今年で13回目となる、くるりプレゼンツ『京都音楽博覧会(以下、京都音博)』が開催された。今年のトピックのひとつとしては、NUMBER GIRLの出演が挙げられる。90年代後半にデビューし、それ以降の日本のロックバンドの音楽やあり方に大きな影響を与えた存在として、「くるり・SUPERCAR・NUMBER GIRL」と、いまだに名前が列挙される、いわば同期であり、それぞれ親交も深かったわけで、NUMBER GIRLが復活するとなればくるりがオファーを出すのも、それにNUMBER GIRLが応えるのも、うなずける。

 ふたつ目のトピックは、当日会場に着いてから「そうか、なるほど」と気がついた。会場内外のインフラなどのディテールが、去年までとは変わっていたこと。飲食エリアの店のバラエティ感が増していたりと、あちこちに「あ、去年までと違う」というポイントがある。あ、それからもうひとつ。この梅小路公園、京都駅から徒歩15分くらいなのだが、そこから一駅のところに、今年から「梅小路京都西駅」が新しくできて、そこからなら徒歩3分で着く、というトピックもありました。

  さて開演。FM802DJ・野村雅夫の前説に続き、くるりの3人が開会宣言。岸田繁(Vo/Gt)と佐藤征史(Ba/Cho)は菅笠をかぶっている。「今年は例年より前の方に来ていただいてて、ありがとうございます。いつもね、後ろから埋まっていくっていう変なイベントなんで。今日はみなさん元気がよろしそうで」と佐藤。「チケットを持っていらっしゃるみなさんも、演者でもあります我々もですね、天気レーダーをこんなに見たことはないぐらい。よかったです、ほんとに」と、台風17号の接近に気が気でなかったことを口にし、まだ雨が降っていない空を見上げる岸田。「京都で活動してきたバンド、でも最近(一部メンバーが)東京に行ったらしいんですけど」(岸田)「でも毎年のように『音博』に遊びに来てくれてましたからね」(佐藤)「京都が生んだすばらしいバンドの演奏から、『京都音博2019』を始めたいと思います」(岸田)と、トップのHomecomingsを呼び込んだ。

 では以下、1アクトずつ短くレポしていきます。

Homecomings

1 Songbirds
2 Hull Down
3 Smoke
4 Blue Hour
5 Cakes

 「せいいっぱい演奏しますので、楽しんでいってください。心をこめて歌います」という畳野彩加(Vo/Gt)のひとことからの「Songbirds」でスタート。1曲目は英語詞で2〜5曲目は日本語詞、70年代の英国や米国や日本のロックやAORのテイストを持った、誰にも何も強制しないが誰をも何も拒絶しない、大きなタイム感のメロディが梅小路公園に広がっていく、とても気分のいい時間だった。

 後半のMCで福富優樹(Gt)、「京都の北の方の端っこの大学の、そのまた端っこの部室で組んだバンドが、ここに出られて感慨深いしうれしい」と、くるりとオーディエンスに感謝を伝える。

 ラストは今年4月リリースの最新シングルで、今年上半期あちこちで話題になった今泉力哉監督の映画『愛がなんだ』主題歌である「Cakes」。終始ほぼ目を閉じて歌う畳野彩加が、この曲では、何度も目を開けていたように見えた。

Camila Meza & Shai Maestro

1 Para Volar
2 Cucurrucucu Paloma
3 Kallfu
4 Away
5 Amazon Farewell

 チリ出身、ニューヨークを拠点に活動するシンガーソングライター/ギタリスト、カミラ・メサと、イスラエルのジャズピアニスト、シャイ・マエストロの2人。カミラ・メサは9月9・10日に東京のブルーノートで来日公演を行っているが、その時は「カミラ・メサ&ザ・ネクター・オーケストラ」としてのライブだったそうで、つまりシャイ・マエストロとのデュオは、このステージのためのようだ。

 歌がまるで話しているよう、というのはよくある形容だが、カミラ・メサのギターもシャイ・マエストロのキーボードも同じく、まるで話しているようかに耳に響く、本当に自在な全5曲。2曲目では冒頭に長いインプロビゼーションもあり。ラストの5曲目の後半では、ギターとキーボードでちょっとしたバトル状態に。ふたりの演奏がピークを迎えるたびに、何度も拍手が上がった。すばらしかった。今年の『京都音博』で唯一惜しい点は、メンバーがプッシュした(主に欧米以外の)海外のアクトが、この1組だけだったこと、と言えるかもしれない。

折坂悠太

1 朝顔
2 芍薬
3 さびしさ
4 よるべ

 エレピ、ウッドベース、ドラム、ギター、ギターと歌の本人、折坂悠太という編成(京都を拠点とするミュージシャンたちで、これを彼は「重奏」と呼んでいる。東京を拠点とするメンバーでのバンドもあって、そちらは「合奏」)。

 1曲目「朝顔」を歌い始めた瞬間、会場全体が「うわっ」と固唾を飲んだような気がした、その声の響きに。1コーラス歌いきったところで、早くもドーッと拍手が湧いたのも、曲終わりまでリアクションを待ちきれない感じだった。「天気が心配ですけど、私は今年ものすごい晴れ男なので。私が来たからもう大丈夫です!」というMCに、さらに拍手が湧く。

 3曲目「さびしさ」の前にくるり「ロックンロール」のサビを弾き語りで聴かせるサービスもあり。今日一緒にステージに上がっているのは京都の木屋町UrBANGUILDで出会ったバンドであること、京都は第二の拠点であること、憧れの先輩にこうして呼んでもらえてこんなに光栄なことはないと思っていることなどを、最後に言葉にしてから「よるべ」で締めくくった。

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