“アイドル恋愛禁止”という考え方は、どう変わっていく? Nao☆、古川未鈴の結婚から考える

 女性アイドルのライフコースについて捉えるうえで、2019年は新たな潮流を感じさせる事象が相次いで生まれた。ここで着目するのは特に、アイドルと結婚にまつわるトピックである。2月にNegiccoのNao☆が、9月にはでんぱ組.incの古川未鈴がそれぞれ自身の結婚を発表した。二人とも、結婚後もそれぞれグループのメンバーとして変わらず活動し続けている。

でんぱ組.inc「ボン・デ・フェスタ」

 結婚後も変わらず活動、とあえて書いたのは、とりわけアイドルというジャンルにおいては、実践者自身がパートナーをもつことが禁忌として語られることが多く、あまつさえ「恋人をもたないこと」がなかば規範のように位置づけられてきたためだ。受け手の消費行動のありようを指し示す「疑似恋愛」という概念がしばしばともなわれつつ、その規範は正当化されてきた。

 もっとも、多人数グループを中心に女性アイドルシーンが活況を帯びた2010年代は、アイドルという文化の社会への受け入れられ方が変化をみせた時期でもある。また、長期間にわたって活動してゆくグループがいくつもあらわれるにつれて、アイドルという形態を通じて各々が表現しうるものの幅も豊かになった。

 5月の記事で論じたように(アイドル=少女というイメージは払拭できるか 乃木坂46らの功績と社会の現状から考える)、今日の女性アイドルというジャンルは、自己表現を模索するための間口の広いフィールドとして整備され、また以前よりも長い年月にわたって各人がこの職能を継続してゆく道も拓かれた。そのことで「アイドル」は、年齢的にも志向性としても、より広い人物像や世界観を体現するようになった。また、音楽グループという範疇を超えて、実践者たちそれぞれが己のパーソナリティや適性にかなう表現を模索するための懐の広いフィールドとしても、女性アイドルシーンは機能している。

 そうした土壌として女性アイドルというジャンルが定着してゆくことは必然的に、「アイドル」として生きる彼女たちの、一個人としての長期的なキャリアやライフコースに関する想像力を受け手のなかに喚起する。であればこそ、その只中で活動する彼女たちが体現するスタイルのひとつとして、Nao☆や古川の選択はかつてよりも受容されやすいものになっていただろう。

 しかしまた、古川が結婚発表に際して強く葛藤をにじませていたように、「アイドル」がパートナーをもつことへの禁忌は、いまだアイドルが対峙するさまざまな局面において色濃く残存している。女性アイドルの2010年代は、アイドルという職能の可能性を押し広げる一方で、現在のグループアイドルシーンが成立するずっと以前から存在してきた「恋愛」や「結婚」を忌避する風潮を、いびつに抱え込み続けた時代でもあった。

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