sumikaにとってライブハウスは大事なことを確認できる場所 『Wonder Bridge』ツアー東京公演を振り返る

sumika『Wonder Bridge』ツアーレポ

 10月18日、sumikaがZepp Tokyoにてワンマンライブを開催した。全15公演のライブハウスツアー『sumika Live Tour 2019 -Wonder Bridge-』の11公演目にあたるライブだ。

 sumikaはライブの本数が多いバンドだ。例えば今年は、9~11月開催の今回のライブハウスツアー以前に、3~6月にはホールとアリーナをまわるツアー『sumika『Chime』Release Tour』(24公演)を開催。また昨年に関しても、5~7月のホールツアー『sumika Live Tour 2018 "Starting Caravan"』(16公演)、そして10~12月のライブハウスツアー『ファンファーレ / 春夏秋冬』Release Tour』(13公演)と、ツアーを2本行っている。両年とも、2本のツアーの間にあたる時期は夏。この時期は『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』、『SWEET LOVE SHOWER』、『JOIN ALIVE』、『MONSTER baSH』、『NUMBER SHOT』など全国のフェスに精力的に出演している。

 筆者が3年前にメンバーにインタビューをしたとき、片岡健太(Vo/Gt)は以下のように語っており、現状、ライブハウスツアーとホール(アリーナ)ツアーを交互に開催している点に関しては、ここにヒントがあるように思う。

片岡健太(Vo/Gt)

 やっぱりキャパが大きくなってくると『これはどう伝えていったらいいのかな』っていうのがわからなくなる瞬間がどうしてもあって。(中略)自分たちからそういう環境を作って、価値観をまた整えて、『これをまた伝えていけば大丈夫だ』って思えたところで、また大きな会場でやって――っていうのを繰り返しやっていければ、嘘なく、大きなステージに進んでいけるんじゃないかなと。一対一で向き合っていくのがある種誠意だと思うし、それを忘れないようにして進んでいきたいので(引用元:『ROCKIN’ON JAPAN』2017年1月号)

 この日のMCで片岡がライブハウスのことを「原点」と表現していたが、言い換えるとそれは、会場のキャパシティやバンドの認知度が上がり、自分たちの音楽を届けるべき人の数が増えていくなかで、立ち戻り、大事なことを確認できる場所がライブハウスだということ。そして彼らが忘れないようにしていることとは、(先の片岡の発言を借りると)聴き手と一対一で向き合う誠意、目と目を合わせて音楽を伝える過程で生じる生(なま)だからこその温度感だ。それは、sumikaがライブに求めるものとイコールであり、逆に言うと、それを心から求めているからこそ彼らはバンド活動の多くをライブに費やしているといってもいい。

黒田隼之介(Gt/Cho)

 ツアータイトル『Wonder Bridge』は、バンドとファンを結ぶ想いの矢印が一方通行ではなく相互通行であるように、という意味を込めて付けられたもの。観客からの「ありがとう」に対して「どういたしまして」と返すのではなく、同じように自分たちも「ありがとう」と思っているのだ――とMCで彼らは語っていた。

 相互通行の関係性はまず“音楽をともに分かち合う喜び”としてライブに表れていた。荒井智之(Dr/Cho)、黒田隼之介(Gt/Cho)、小川貴之(Key/Cho)、サポートの井嶋啓介(Ba)によるカラフルなサウンドが溢れ出すなか、「2階席も、1階席も~♪ 両サイドも、もちろん前も~♪」とフロアへリズミカルに呼びかける片岡。そんな展開に手を引かれるようにして、滑り出しの「Lovers」、「カルチャーショッカー」、「Flower」の時点でフロアから大きなシンガロング、手拍子が発生していた。最新リリースにあたる「イコール」はBメロに観客の歌声と掛け合いをするようなパートがあり、爽やかなエネルギーに満ちている。

 片岡は、転ばないのが不思議になるレベルで、観客の方に視線を向けたままステージ上を走り回っている。黒田、小川、荒井も歌詞を大きく口ずさみながら観客一人ひとりの表情をよく見ていて、時にはジェスチャーやその表情を通じて何かサインを送っている。メンバー曰く、この日の観客の歓声は「強くて長い」。MCによると、どうやらこれまでのsumikaのライブのなかで最も観客の男性比率が高かったらしく、力強い歓声に「ヤバい、慣れてない(笑)」「テンション上がる(笑)」と喜んでいた。

荒井智之(Dr/Cho)

 中盤には“アッパーな曲”(=「イナヅマ」)と“ハートウォーミングな曲”(=「ここから見える景色」)のどちらを聴きたいか観客に尋ね、その場で演奏曲を決める企画も。その企画からは、今だけの空気感をセットリストに反映させようというバンドの意図がうかがえたし、曲が決まったあと、タイトルの書かれた紙をスタッフに見せ、そこから素早く準備し――という流れには、舞台裏含めたチーム・sumikaの連携力の高さが表れていた。因みにこの日演奏されたのは「イナヅマ」。拍手の音量で多数決をとったものの結果はほぼ同率で、メンバーもどちらにするべきか悩んでいる様子だった。

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