これからの婚活に必要なものは「プロデュース力」? 日本の婚活の歴史から考察

 イマドキの婚活はこんなにも進化しているのか……。それが、離婚をし「婚活市場」という戦場に舞い戻ってきた筆者が一番に抱いた思いだった。スマートフォンのマッチングアプリや趣味に応じて開催される婚活パーティーなど、近頃の婚活は多様化している。

 筆者は昔「メル友掲示板」で出会った人と結婚した。当時はまだ“マッチング”という言葉が広まっておらず、そうした掲示板は「出会い系サイト」と呼ばれていたため、周囲を気にかけ、出会いのきっかけを「友達の紹介」と何度ごまかしたことだろう。

 しかし、今は違う。インターネットを介した結婚は一般的だと認められつつあり、ごまかす必要がなくなってきた。一体いつから、こんな風に婚活の形が変化したのだろう。そんな疑問を解決してくれたのが『日本婚活思想史序説: 戦後日本の「幸せになりたい」』(佐藤信/東洋経済新報社)だ。

 東大先端研の政治学者が昭和・平成の婚活論の変化を研究した一冊で、多角的な視点から「いい結婚ってなに?」を考えるきっかけを与えてくれる 。

婚活論は「Hanako族」から「条件婚活」へ

佐藤信『日本婚活思想史序説―戦後日本の「幸せになりたい」』(東洋経済新報社)

 結婚情報誌として有名な『ゼクシィ』には、素敵な結婚式を挙げるためのブライダル情報がみっちりと詰め込まれている。プロポーズ後だけでなく、彼氏に結婚の意思をほのめかすため部屋にさりげなく置いたことがある女性は意外に多いだろう。

 そんな『ゼクシィ』とは異なり、結婚生活をゴールに定めた結婚をしようと訴えた結婚情報誌が昭和時代にはあった。それが1983年に発刊された『結婚潮流』だ。平均年齢24歳の女性編集陣によって立ち上げられた『結婚潮流』は恋愛結婚というファンタジーへの強い懐疑を訴え、恋愛前から結婚のことを考え、単なる「独身脱出」ではない結婚生活をおくる方法を真剣に模索していた。恋愛結婚と見合い結婚という二項対立の狭間で、第一印象による恋愛感情ではなく、結婚生活を重視した結婚を戦略的にしようと提唱していたのだ。

 『結婚潮流』には男性の給料が記された「100人の釣書」や職種に応じアプローチ方法をまとめた「職業別アタックシリーズ」が掲載されており、まるで誌上でお見合いが繰り広げられているかのようだった。さらには、『結婚潮流』とタイアップした結婚情報サービスも提供されたという。そんな『結婚潮流』に刺激を受け、1980年代半ばには結婚論ブームが生じた。本書では昨今の婚活ブームの基盤を築いたこの時期を『婚活0.0』と呼んでいる。

 その後、『結婚潮流』が衰退していくと、未婚女性の結婚の焦点が独身脱出に移っていった。『ゼクシィ』が登場したのも、この頃。結婚することがゴールであるかのように考えられ始めた。当時は、いずれ結婚することを前提にしながらも独身を謳歌する「Hanako族」が一世を風靡していた時代だ。

 しかし、そうした婚活論は21世紀になるとガラリと変わる。バブルが弾け、長期不況となると男女のマッチングに不全が生じるようになり、結婚がまるで人生の勝ち負けを証明するステータスであるかのように受け止められ始めたからだ。女性たちの間には専業主婦志向が戻り、バリキャリの独身女性は肩身の狭い思いをした。

 こうした風潮を経て生まれたのが、「条件婚活(マーケティング婚活)」。これは、恋に盲目な態度で結婚相手を見つけるのではなく、各々が望むライフスタイルに合わせ、条件に合う相手を探していくという婚活法。独身脱出ではなく、結婚の先にゴールを置いているのが特徴だ。相手の年収や職業、家族構成などを踏まえた上で恋愛をするかどうかを吟味する条件婚活は、現代で主流となっている婚活思想だ。

 こうした婚活論の変化を振り返ってみると面白いことに、現代の条件婚活と『結婚潮流』が訴えていた内容が非常に似通っていることがわかる。1980年代に時代の先を行く婚活論を打ち立てていた『結婚潮流』にはきっと、現代人にも参考となる処世術がたくさん記されていたことだろう。

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