園子温が語る、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に負けない日本映画の戦い方

園子温が語る、日本映画の戦い方
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園子温

 エッチな妄想が渦巻く高校生たちの日常を、放送コードすれすれの表現で描き出した大人気テレビシリーズ『みんな!エスパーだよ!』が映画化された。『映画 みんな!エスパーだよ!』は、突然超能力を手にした男子高校生と仲間たちが、「人類エロ化計画」を食い止めるために立ち上がる青春恋愛劇。さらにエロく、さらにバカバカしい劇場版の監督を手掛けるのは、テレビシリーズでも総監督を務めた園子温だ。

 2014年、既に3本の監督作が公開され、『映画 みんな!エスパーだよ!』公開の後、さらに今年3本の映画を撮るという彼は、いま何を考え、どこへ向かおうとしているのか? 本作がキャリアの一区切りと語る園子温の、ハリウッドに立ち向かうための監督術。(門間雄介)

「男性が観て、いかにそそるかということに集中した」

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――『映画 みんな!エスパーだよ!』は、パンチラも谷間もTENGAも、テレビシリーズよりさらにてんこ盛りになっていた気がします。エロ増量は映画化の狙いのひとつでしたか?

園:そうですね。テレビより規制がゆるくなった分、映画ではスケールアップしようと思いました。というのも、テレビシリーズの時はエロ過ぎて、テレビ東京のお偉いさんに毎回怒られてたんです。バケツを持って1時間廊下に立ってろみたいな。だからチクショーという思いがあったんですね。ところがギャラクシー賞を受賞した途端、掌を返したようにとんとん拍子で映画を作る運びになったので、あんなに怒られたのは何だったんだろうと(笑)。いまは笑い話ですけど、けっこうシビアに怒られてたので。

――ははは。テレビの限界に挑みましたからね。

園:あの時は本当にへこんだけど、ロケーションからキャスティングまですべて関わった総監督として、テレビシリーズの締めくくりをやるべきだなって。でもあらためてエロの世界へ飛び込むのは、清水の舞台から飛び降りるようなもので、そうとう勇気が必要でした。もちろん一度その中に入ってしまえば、「オッパイもっと出せ!」とか言ってバカになっちゃうんだけど、いやいやいや、もう53歳だしと思って(笑)。作業に入ったのがちょうど『ひそひそ星』というストイックな映画を撮った後だったので、また地獄に堕ちていくのかという思いでしたね、最初は。

――とはいえ、エロいシーンはすごくエロく撮られていたと思います。

園:それは技術的な蓄積もさることながら、一度堕ちてしまえばとことんエロく行くということですよね。例えば池田エライザがベッドで汗だくになっている自慰シーンは、かわいく、きれいに、観る人が悶々とするような撮り方をしています。そこはもちろん今回気を付けたところです。男性が観て、いかにそそるかということに集中して撮ろうと。

――先日、永井豪さんとの対談がテレビでオンエアされて、園さんは永井作品から受けた影響について話していましたが、あらためて考えると『みんな!エスパーだよ!』には園子温版『ハレンチ学園』のような側面もありますね。単にエロなだけでなく、性に悩む若者たちに対して、大丈夫、勃起しているのは君だけじゃないと勇気を与えるようなところがあって。

園:ええ。クランクインに当たって考えていたのは恋する青春映画ですが、結局はそういうところに行きたいと思っていました。ただ、永井先生が『ハレンチ学園』を描いていたのは20代。それなら読者と一緒に盛り上がれるタイミングだったと思うけど、僕はこの年じゃないですか?(笑)。勇気も体力も必要でしたね。

――今回の映画版で特に顕著だと思ったのは、エロい妄想でまわりからバカにされている人たち、つまり虐げられている人たちの側に自分はいるんだという園さんのスタンスです。

園:それは僕自身が虐げられる側にずっといたからだし、いまもその思いはあまり変わりありません。自分は常に逆境にいるというつもりで生きていて、だから僕は虐げられている人たちや逆境にいる人たちにずっとシンパシーを感じながら映画を作ってるんです。

――この映画では、そんな逆境にいる主人公の嘉郎が、テレビシリーズ以上にヒーロー的な活躍を見せますね。

園:ただ、超能力でやり合うとなると『アベンジャーズ』の世界になってしまうので、そこへは行きたくないなと。アクションを取り入れてほしいという要望もありましたけど、純真な高校生魂で相手をギャフンと言わせなきゃダメだという思いがあったんです。それで最後にあんなふうになっちゃうんですけど(笑)。

――終盤、嘉郎を中心にエスパーたちが結集して、横並びで歩くシーンはまるで『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』みたいだと思いました。

園:そうそう。なのに、奴らかいという(笑)。ヒーローとは言っても、女の子に「かっこいい!」と言われたいから、「じゃあ絶対に世界を救っちゃう!」というノリですよね。あくまでヒーローになりたい童貞の話で、そこは脚本上も気をつけていたところです。あまり正義感を燃やしすぎると、本当のヒーローになっちゃうので。恋をして、邪な気持ちで世界を救おうとしているのは、一般的なヒーローものと決定的に違う部分だなと思います。恋のない地球は救えないというか。

――今回驚いたのは、嘉郎の恋愛感情を掘り下げていって、最終的に母と子の愛にまで辿り着くところです。なぜこのような筋立てになったんですか?

園:僕が書いていた初期の脚本は、胎児の頃に始まって、幼稚園、小学校、中学校、高校と、嘉郎の人生を辿っていくものでした。その後、テレビシリーズにも参加した脚本家の田中眞一くんに混ざってもらって、田中くんに改稿をお任せしたら、胎児の話だけ残っていて(笑)。じゃあ、それに全体を合わせようということで、現場でどんどん改稿を重ねたんです。だから現場で考えついたこともたくさん取り入れられてますね。その結果、途中から助監督も何を撮ってるのかさっぱりわからなくなってきて、役者たちも何のシーンだかよくわからないまま芝居してたりする(笑)。とにかくテレビシリーズの単なるスピンオフや、敵を倒して終わりの作品にはしたくなかったんです。

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