『下町ロケット』は“現代の時代劇”だ 福澤克雄チームの必勝パターンと今後への期待

 『下町ロケット』(TBS系)が好調だ。初回平均視聴率は16.1%(関東地区)、第3話では18.6%(同)を獲得した。ドラマの視聴率は第2話以降低下することがほとんどだが、逆に伸びているということは、ドラマの面白さ自体が注目されているということだろう。

 『下町ロケット』は、池井戸潤の人気小説をドラマ化したものだ。TBSの日曜劇場(日曜夜9時枠)で放送されており、池井戸潤原作の大ヒットドラマ『半沢直樹』(TBS系)を手掛けたスタッフが結集している。

 本作は、宇宙科学開発機構の元研究員で、今は父親の後を継ぎ、精密機械工場・佃製作所の社長となった佃航平(阿部寛)を中心とした社会派エンターテイメントだ。物語は佃製作所がライバル会社のナカシマ工業から特許侵害で訴えられる場面からはじまり、倒産の危機の中で、神谷修一(恵俊彰)弁護士の助言で佃製作所が逆訴訟に打ってでることになる。それと同時進行で帝国重工のロケット開発と絡んで、佃製作所が制作していたロケットエンジンのバルブシステムの特許使用をめぐる物語が展開されていく。
 
 第6話からは2015年の10月に朝日新聞で連載され、11月に単行本化された『下町ロケット2 ガウディ計画』を原作とした物語も展開されることとなっており、原作小説が本放送中に発売されるというメディア展開も話題となっている。

 現在、池井戸潤の小説はテレビドラマの原作にひっぱりだ。転機となったのは『半沢直樹』だが、実はそれ以前からドラマ化はされていた。『下町ロケット』も2011年にWOWOWでドラマ化されていて今回が二度目。NHKの土曜ドラマ枠では、『鉄の骨』、『七つの会議』がドラマ化されている。

 これらの作品は、企業の内幕を硬質なタッチで描いたハードな社会派ドラマで、玄人筋には高く評価されていたが、決してヒット作ではなかった。転機となったのは、やはり『半沢直樹』だろう。チーフディレクターの福澤克雄を中心とするドラマスタッフは、本作で池井戸潤の小説の印象を大きく変えた。

 福澤克雄はインタビューで、池井戸潤の原作小説は活劇だ。と語り、『半沢直樹』のドラマ化にあたって黒澤明の『用心棒』を意識したと語っている。つまり、変な言い回しとなるが、池井戸潤・原作ドラマは、“現代の時代劇”として作られているのだ。

 だから、敵はいつも大手企業の社員や銀行員や官僚で、彼ら悪代官に苦しめられている零細企業に務める貧しい庶民たちを、正義の銀行員や弁護士といった“現代の侍”が懲らしめるという構造になっている。そのため、悪い奴は根性がねじ曲がった嫌な奴として描かれ、主人公サイドは優しい人間として、これでもかと、描かれている。

 そんな、悪くて嫌な奴をみせる時に、福澤克雄の過剰な演出は実に生き生きとしたものとなる。『下町ロケット』で言うと第4話の、帝国重工から監査に来た社員が佃製作所の社員を問い詰める場面がそうだ。最初にねちねちと嫌味を言った悪役は、後半必ず主人公サイドから反論され、最後には徹底的に言い負かされる。こういった勧善懲悪的要素と、困難なプロジェクトを実現するという『プロジェクトX』(NHK)的な中小企業の夢を描くことが、福澤克雄たちが作り上げてきた必勝パターンだと言える。

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