『ゲーム・オブ・スローンズ』なぜ海外ドラマの代表作に? ダーク・ファンタジーの魔力に迫る

小野寺系の『ゲーム・オブ・スローンズ』評

 ストリーミングサービスなど新しい番組配信技術の発展を背景に、アメリカTVドラマ群雄割拠の時代を迎えた現在。そのなかで最大の人気を誇る代表的なシリーズが、HBO制作のドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』だ。「エミー賞」ドラマシリーズ部門で、2015、2016年と作品賞連覇を果たし、監督賞、脚本賞など主要な賞を受賞している。いままでに第6シーズンまで放映され、次のシーズンでは未完の原作小説を飛び越えて、先に完結に向かってしまうという本作。第6シーズン『冬の狂風』のレンタルが開始され、Huluでも配信されるいま、本シリーズがここまで評価され人気を集める理由と、その裏に何が描かれているのかを考えていきたい。

過激シーン連発のダーク・ファンタジー

 原作「氷と炎の歌」は、中世イギリスを参考にした異世界を舞台に、王国を統べる「鉄の玉座」を狙う、いくつもの氏族たちの興亡を描いたファンタジー小説だ。『ゲーム・オブ・スローンズ』オープニングは、諸侯の思惑が駆け巡るボードゲームを模した映像で、毎回幕を開ける。

 同じように小説を原作にファンタジー世界を描く『ロード・オブ・ザ・リング』と異なるのは、セックス&ヴァイオレンスという「俗悪」な描写を多く含んでいるという点である。本作はドラゴンが炎を吐き空を飛び回るような世界を描きながらも、ほぼ全てのエピソードにおいて、男女もしくは同性が全裸でまぐわったり、剣の戦いによって内臓を飛び出させ、斬られた生首がすっ飛んでいくような生々しさも同時に描かれる。従来のTVのコードを超えて、「ファンタジー作品は子供のためのもの」という概念をも吹き飛ばしてしまう。本作の暴力的だったり性的に過激なシーンが、ほぼ全てのエピソードに散りばめられていることが人気の秘訣になっているというのは確かだ。

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 しかし、本作はただやみくもに俗悪さで釣るだけの煽情的な作品だというわけではない。ここで下敷きとされているヨーロッパの中世は、「暗黒時代」といわれる。それ以前、古代ギリシア人や古代ローマ人は、武力による戦争を起こしたが、同時に急速に文明を発展させ、様々な分野において優れた文化をヨーロッパに広めた。だがイギリスをはじめ、当時「蛮族」と呼ばれていたゲルマン民族がヨーロッパを席巻した後は、君主が臣下に領地を与える「封建制」の発達によって、領地を広げるための際限のない戦争が続くようになった。さらに教会が力を強め信仰が行き渡ると、科学や芸術などの自由な文化が停滞、もしくは退行したといわれる。本作では、身分の高い女が犯した罪の汚名をそそぐため、恥にまみれて全裸で市中を歩き回らせられ、大勢の民衆から迫害を受ける様子をじっくりと見せていく場面もある。

 間違った医療なども横行する戦乱と迷妄の時代は、現代の視点から進歩主義に反するものとして批判の対象となるが、その一方で、迷妄の中にあるがゆえに、幻想的な物語とも親和性が高いといえる。つまり、西洋的な歴史観における「ファンタジー」には本来、暗黒時代に表面化した人間の野蛮な面が含まれるはずだということだ。その過激さを包み隠さず、さらに大スケールで描いていく本作は、ある意味でいつか作られるべきファンタジー大作であったといえるだろう。

壮絶な戦いのなかでたくましく生きる女たち

 さらに興味深いのは、本作の登場人物の多さである。多くのドラマ作品では、視聴者が混乱しないように登場人物を絞って物語を整理するものだが、ここでは序盤から多くの氏族が登場し、原作同様に群像劇としていくつもの複雑なドラマが並行して描かれていく。初見でその様々な名前や関係を全部把握することは難しい。人によっては日本の戦国時代や中国の「三国志」などと重ね合わせると馴染みやすいかもしれない。そして、技術の進歩によって複数回の視聴が容易になっている現在、小説のページをさかのぼって確かめるように、理解するまで何度もシーズンを飛び越えながら、登場人物の確認をすることもできるはずだ。逆を言えば、作り手はそれを前提にしているからこそ、従来のドラマよりも重厚で広がりのある世界を表現できるようになったのだともいえるだろう。本シリーズは小説や映画のように、腰を落ち着けてじっくりと集中して楽しむドラマなのだ。

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 登場人物といえば、いろいろな意味で「強い女」が次々に現れ活躍するところは、むしろ現代的である。王の妃(きさき)でありながら自分の双子の弟と肉体関係をむすび、野心のため殺人も厭わない、「氷」のように冷酷な女。王の血筋を引きながらも、実の兄に辺境の騎馬民族に売られ犯されながら、やがてその部族を従え女王になり、鉄の玉座を狙って「炎」のように侵略する女。名門氏族の女たちが駆け引きを重ね、たくましく権力をたくわえていく姿は壮観だ。

 さらに、歴戦の豪傑にも匹敵する屈強な女剣士。父の遺志を継いで、少年に変装し剣術修行をしながら旅をする少女。北にそびえる巨大な壁を挟み、敵対する種族の男と恋に落ちる「野人」の女戦士など、しばしば逡巡し迷いがちな男よりも、強い意志を持っている女たちに目を引かれがちになる。

 この暗黒世界では、権力を持たない者や身体の弱い者、知恵のない者は、老若男女に関わらず生き残ることはできない。男は殺され、女は犯されて殺される。市中で死体をさらされたり、生きて奴隷にされる者もいる。だが、たとえ強者であっても、権力闘争のなかではいつ殺されるか分かったものではない。戦争や暗殺などで、これまで丁寧に描かれてきた登場人物が、容赦なく次の瞬間には無残に死んでしまう。一体、誰が死に、誰が生き残るのか、脚本のセオリーすら無視して視聴者を翻弄するのである。そして最も大事なのは、「正義が勝つわけではない」という点である。他の作品であれば当然英雄となるべき正義の人物は、能力や状況などの現実的な要素によって、ときに勝利し、ときに惨殺され路傍に倒れる。そのあっけない死に様には、ある種の官能性すら感じる。

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