社会派スリラー『ゲット・アウト』監督が語る、笑いと恐怖の共通点 「どちらも“死と向き合う”のに必要な感情」

『ゲット・アウト』監督インタビュー

 アメリカのお笑いコンビ “キー&ピール”のジョーダン・ピールが監督・脚本を手がけたホラー/スリラー映画『ゲット・アウト』が、10月27日より公開されている。同作の製作を手がけたのは、『インシディアス』『ザ・ギフト』『ヴィジット』など、近年の斬新なホラー映画に数多く携わってきた映画プロデューサー、ジェイソン・ブラム。低予算の作品ながら、全米初登場でNO.1ヒットを記録し、監督のデビュー作にも関わらず米映画レビューサイト『Rotten Tomatoes』で99%大絶賛されるなど、高く評価されている。

 ニューヨークに暮らすアフリカ系アメリカ人の写真家クリスが、週末に白人の彼女ローズの実家で過ごすことになり、ローズの両親らは彼を歓待するのだが、クリスは妙な違和感を覚え、やがてそれは恐ろしい現実になっていくーー。

 監督が“アメリカのモンスター”と表現する人種差別問題を、ホラー/スリラーのジャンルで鮮烈な恐怖とともに描いた本作は、どのように製作されたのか。ジョーダン・ピール監督に電話インタビューを行った。

コメディとホラーには共通の要素がたくさんある

ジョーダン・ピール監督

ーー『ゲット・アウト』は、“キー&ピール”として活躍する監督ならではの、皮肉とブラックなユーモアに満ちた刺激的なホラー作品です。人種差別という非常にセンシティブな題材に真正面から取り組み、しかも今の黒人文化の有り様を鋭く照射する内容にもなっていました。本作の監督・脚本を手掛けることになったきっかけは?

ジョーダン・ピール(以下、ジョーダン):2008年にこの映画を思いつき、そこから自分でプロットなどを練り始めたんですが、最初は扱っているテーマがテーマなので、完成するわけがないと思っていました。ただ書いていて楽しいので、あらすじや脚本をコツコツと書いては直しを続けていました。今まで観たことのないような、自分が観たいと思えるような映画を作りたいと、純粋な気持ちで書いていましたね。プレッシャーもなく仕上げられたのは、この映画は実現しないだろう、と思っていたからだと思います。

 それから約3年が経ち、筋書きやキャラクターなどが完璧に頭の中で出来上がってから、QCエンターテインメントという映画会社にプレゼンをしに行くと、「500万ドルぐらいしかないけど、面白いから是非作ろう」という話になり、2~3ヶ月後、ジェイソン・ブラムに会いにいったんです。ジェイソン・ブラムは話を聞くなり、乗り気で「サポートするので是非作りましょう」と言ってくれて、実現することができました。自分にとっては夢のような話でしたね。ジェイソン・ブラムが手がけた映画は、ユニバーサルの絶妙なマーケティングで次々とヒットしていたので、自分にとってはとても心強い土台ができたと思いました。

ーーコメディではなく、ホラー/スリラーを選択した理由を教えて下さい。

ジョーダン:厳密に言うと、私は本作をホラーというより“社会派スリラー”というジャンルに分けていますが、ともあれ、コメディとホラーには共通の要素がたくさんあると考えています。映画の構成というか、観客を誘っていく手法という点でも非常に似ていますし、タイミングを計って予想の裏をつくような、そういった手法も似ています。ありえないシチュエーションなのですが、観客が観ていて“自分だったらこの状況にたたされた時どうするんだろう”と思ってしまうような、現実に根差したストーリーにしたつもりです。

『ゲット・アウト』より

ーー笑いと恐怖というふたつの感情には、どのような共通項があると考えていますか?

ジョーダン:笑いと恐怖というのは、端的に言えば“死と向き合う”、つまりパターン化した今の日常というのが、いつかは崩れゆく、そしてなくなっていくものなんだ、という実存主義のような問題と向き合うのに必要な感情だと思うんです。居心地が悪い、直面するには辛すぎる、という体験に向き合い、恐怖で叫びをあげてしまう時に、同時に笑いもこみ上げるという経験は皆さんあると思います。そういう風に吐き出すことで、一種のカタルシスのようなものを得られるのでしょう。そういった意味でふたつの感情は同じ役割を果たしていると思っています。

ーーM・ナイト・シャマラン監督の『ヴィジット』などに携わってきたジェイソン・ブラムらが製作に名を連ねています。彼らとの作業はどうでしたか?

ジョーダン:ジェイソン・ブラムが撮影現場にくることはあまりなかったのですが、この手の作品に関しては、プロ中のプロ、超一流といえる人物です。彼のような存在は今の映画界では非常にレアだと思います。とにかく低予算でできる限り、最善のものを作ることにかけては右にでる者はいないでしょう。特に感心したのは、撮影現場で問題が起こった時です。私にとっては初の監督作品だったため、自分だけでは対処できないことがよくありました。そんな時に彼に相談をすると、すぐに助けてくれる人を呼んでくれたり、解決策をその場で教えてくれたりして、順調に撮影を進めてくれる。本当に素晴らしい手腕でした。また、彼はブラムハウス・プロダクションズとユニバーサル、双方と素晴らしい信頼関係を築き上げていて、盤石な協力体制ができていたのも、制作を進める上での助けとなりました。

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