『スター・ウォーズ』疲れが原因? マーベルと比較して考える『ハン・ソロ』が大コケした理由

『ハン・ソロ』全米興行低調なぜ

 2012年10月31日を今でも覚えている。この日、米ディズニーによるルーカスフィルム買収が発表された。「『スター・ウォーズ:エピソード7』は2015年公開を予定している」。この一文にどれだけ歓喜したことか。あれから約3年、こんなに早く“スター・ウォーズ疲れ”が起こるなんて……。

 5月25日からアメリカなどで封切られた映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』が、米ディズニーが手掛ける『スター・ウォーズ』シリーズで最初の大コケ作品だと話題になっている。

 本作の第1週目の米国内週末興行収入(5月25日〜27日)は、8,442万489ドル(約93億円)と、見込み額の1億3,000万ドルから1億5,000万ドルを下回る結果に。さらに第2週目(6月1日〜3日)は、2,929万6,000ドル(約32億円)と初週から65.3%もダウン。さらに、第3週目(6月8日〜10日)は1,574万8,575ドル(約17億円)と前週より46.4%下がったことがわかる。6月10日までの米興収の合計は1億7,670万49ドル(約194億ドル)。これは、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の米興収5億3,217万7,324ドル(約585億円)の半分にも満たない。(数字は、Box Office Mojo調べ)

 下記アダム・B・バリー氏のツイートを見れば、最初の10日間の米興収は『ハン・ソロ』だけほぼ横這いで(1枚目画像参照)、世界的に見ても圧倒的に本作だけ興行が奮っていないのが伺える(2枚目画像参照)。

 また、落ち込んでいるのは興行面だけでなく、評価も芳しくない。批評家によるレビューを集計してパーセンテージで表示するサイトRotten Tomatoesで本作は、71%のスコアを記録。同サイトでは、75%以上を保持する作品に「Certified Fresh(鮮度保証)」の称号が贈られるのだが、『フォースの覚醒』から順に93%→85%→91%を記録してきた米ディズニーの『スター・ウォーズ』映画の中で『ハン・ソロ』は初めてその称号を得ることができなかった。(ちなみに、『スター・ウォーズ』サーガの中では『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』、アニメ版も含めば『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』が未だワースト1位の座を譲らずにいる。)

 『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』は、かつてハリソン・フォードが演じたハン・ソロの若き日を描いた『スター・ウォーズ』シリーズのスピンオフ。本編と大差がついてしまうのは頷けるのだが、同じ位置付けにあり、なじみのキャラクターのブランドを利用しなかった『ローグ・ワン』がどれだけ偉業を成し遂げたのか今回で浮き彫りなったように思う。

 そもそも『ハン・ソロ』は前評判が良いとは言えなかった。製作当初は、『LEGO(R)ムービー』のフィル・ロード&クリストファー・ミラーが監督を務めるはずだったのだが、撮影に入っている最中に“創作上の相違”によって2人が降板。その後釜に現在のロン・ハワードが起用された。その上、監督だけでなく編集を務める予定だったクリス・ディケンズも降板、さらにルーカスフィルムは、ハン・ソロ役のオールデン・エアエンライクの演技に納得が行かず、演技指導員まで付けている。

 もちろん『ローグ・ワン』の際も、トニー・ギルロイが脚本をリライトし、3分の1以上を再撮影するという怒涛の変更が行われたが、これは作品のクオリティーをより高くするための策であった。『ハン・ソロ』にまつわる製作上でのトラブルは、ルーカスフィルムと製作スタッフの間にヒビが入っていることが伺えるためファンに不信感を。興行収入を分析するExhibitor Relationsのジェフ・ブロック氏は、公開前のマイナスイメージが人々に、「観る価値があるか否か」という大きな疑問をもたらしたと語っている。

 それだけでなく、The Hollywood Reporterによると、興行アナリストたちはこの低調の1番の原因を、『最後のジェダイ』からわずか5か月という短いスパンで公開に至ったことだと考えているそう。観客たちに“スター・ウォーズ疲れ”が起きてしまっている上、不運なことにアメリカでは4月末から『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『デッドプール2』と大作が続いているため客足が離れてしまったというのだ。

 この結果に米ディズニー側も困惑しているようで、同社の配給責任者デイブ・ホリス氏は「どれくらいの頻度で皆さんが映画を観に行くのが疑問です。5週の間に3回は、多いのでしょうか?」とコメントし、エピソード9までの1年半でこの結果を徹底的に調べ、理解しなければいけないと言っている。 

 エピソード9以降も続く予定の『スター・ウォーズ』シリーズ。今のところ『スター・ウォーズ エピソード9』(2019年12月20日米公開)、ボバ・フェットのスピンオフ(2020年)、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』ライアン・ジョンソン版新3部作(2021年)、『ゲーム・オブ・スローンズ』製作総指揮デヴィッド・ベニオフ版新3部作(未定)と9作の公開が決まっている。

 とはいえ、同じディズニー傘下にあるマーベル・スタジオは、2017年から年3本のペースで映画を公開してきた。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の爆発的ヒットは記憶に新しく、全米オープニング興収ランキングで歴代1位まで獲得し、世界興収10億ドルの最速記録を塗り替えている。

 TheWrapによれば、同じスーパーヒーロー映画である『スター・ウォーズ』とMCUでは、作品のバラエティーの豊富さに差があるという。例を挙げれば、『マイティ・ソー バトルロイヤル』と『ブラックパンサー』は映画として全く別物で、さらにこの2作品は『 アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』とも異なっており、MCUは様々な作品のトーンやスタイル、キャラクター性が強みになっている。この豊富なトーンが3か月毎の公開でも観客を待ち遠しく思わせることができるのだそう。

 一方『スター・ウォーズ』は、少なくとも今の時点ではバラエティーに富んでいるとは言い難い。一連の作品において、宇宙船をはじめ、ライトセーバー、さらにはジョン・ウィリアムズの作曲、もしくは彼の楽曲にインスパイアされたサウンドトラックで統一されている。そういった点で『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』は定型化したシリーズに手を加えたといえるだろう。しかし、長い目で見れば米ディズニーは、ファンになにをいつ提供するのか調査する必要がある。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる