ハリウッドだけの問題ではないことが浮き彫りに カンヌ映画祭に見る、映画業界が直面している課題

カンヌに見る、映画業界が直面している課題

 2018年4月13日、アメリカの映画サイトIndieWireにて、カナダ人映画監督グザヴィエ・ドランが最新作『The Death and Life of John F. Donovan』をカンヌ国際映画祭に出品しないと決めたことが報じられた。2009年、自身初の長編監督作品となる『マイ・マザー』によって鮮烈なデビューを果たして以来、これまで公開された長編映画6本のうち5本をカンヌで上映し、2年前の2016年には『たかが世界の終わり』がグランプリを受賞するなど、カンヌの舞台でキャリアを大きく花開かせてきたドランのこの決定は大きな驚きであり、カンヌにとっては、期待されていた今年の見どころの一つを失ったようにも見えた。

 そんな前置きがあって開催された第71回カンヌ国際映画祭は、5月8日~19日(現地時間)の期間で行われた。是枝裕和監督による『万引き家族』のパルムドール受賞というめでたいニュースが大きく報じられる中、今回のカンヌでは、ハリウッドのみならず業界を越えて全世界へと波及したセクシャルハラスメントや様々なマイノリティーの不平等な待遇といった社会的な問題、そしてNetflix作品の上映可否をめぐっての公開ウィンドウに関する議論など、ここ数年で映画業界が直面している様々な課題が今もって継続中であること、そしてそれらはもはやハリウッドだけの問題ではないということが浮き彫りになった。

 ここ近年、名のある映画祭や授賞式のセレモニーは、そこに出されている作品や人々の功績を純粋に祝うだけでなく、業界における問題提起の場として使われることが多い。例えば、サンダンス映画祭で2年続けて行われた女性たちによる行進、今年1月のゴールデングローブ授賞式での黒いドレスによる抗議表明、数々のスピーチなど、業界のトッププレイヤーが一堂に会するそれらの場所は、変革を求める声を直接コミュニティーへ届けるのに最適な場なのである。今年のカンヌ国際映画祭でもその流れに乗って、多くのアクションがとられた。審査委員長で女優のケイト・ブランシェットは、82人の女性フィルムメーカーたちを率いて、男女間の格差是正を訴える力強いスピーチを行った。また映画祭側は、映画祭の会期中のセクシャルハラスメント被害者のための電話ホットラインを開設し、未だに起こり続けているハラスメントへの対応を見せた。

 そんな映画祭のメインとなるコンペティション部門には21本の映画が出品され、ヨーロッパ各国を中心に、イランやレバノン、そして日本からも2本の作品が名を連ねたが、今回の映画祭を批判的に報じるメディアもあった。アメリカの大手業界紙Variety、そしてLos Angeles Timesは、カンヌ国際映画祭の、映画業界に起こる変革を拒むとも取れるその姿勢を批判し、カンヌの世界の映画マーケットにおけるプレゼンスの低下、そしてその存在意義までも危惧した記事を出した。

「カンヌ国際映画祭に未来はあるのか」
「カンヌが直面する存在危機:進化か衰退か」(ともにVariety)
「頑さ、傲慢、それとも時代遅れ? 嵐に耐える2018年のカンヌ国際映画祭」(Los Angeles Times)

 上のように題された3本の記事の中では、昨年カンヌとNetflixのビジネスモデルとの間で起きた議論を受けて、カンヌ側が「コンペティション部門に選ばれる作品はフランスでの劇場配給にかからなくてはならない」というルールを今年新たに設け、Netflixのオリジナル作品は基本的に締め出すという道を選んだこと、また上記コンペティション部門出品の21本の中で、女性監督による作品はわずか3本のみであったことを批判し、併せて、アメリカでの賞レースのシーズンが秋から始まることから、8月~9月に開催されるヴェネチアやトロント、テルライドなどの映画祭に比べて、5月開催のカンヌにアカデミー賞の有力候補となる作品をあてることの魅力が以前よりも小さくなっていると書いた。さらには「映画祭自身を定義づける要素である出品作品の『Relevance』が低下している」(Variety)と指摘した上で、「カンヌ映画祭は、メジャースタジオ、独立系関係なく、アメリカの映画業界との強い関係を築くことを怠っている」とまで述べている。

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