欠落感漂う日本の劇場長編アニメーション界の“希望の灯” 『ペンギン・ハイウェイ』を徹底解剖

小野寺系の『ペンギン・ハイウェイ』評

 先日、カナダの都市モントリオールで開催された、ジャンル映画祭として有名な「ファンタジア国際映画祭」に行ってきた。この映画祭のアニメーション部門最優秀賞は、「コン・サトシ賞」と名付けられている。これは2010年に亡くなった日本のアニメーション監督・今敏の業績に敬意を表したものだ。

 そんなディープな映画祭で世界のアニメ作品と競い合い、2018年度の最優秀アニメーション賞を制覇したのが、本作『ペンギン・ハイウェイ』だった。その内容を見れば受賞も納得してしまう、完成度とイマジネーションを持ちあわせた作品だ。そしてそれは、圧倒的な存在感を放ってきたスタジオジブリが継続的な制作から退き、欠落感漂う日本の劇場長編アニメーション界において、希望の灯のひとつとしても評価できる、今後の可能性を感じさせるものとなっていた。

 ここではそんな『ペンギン・ハイウェイ』を解剖しつつ、作品が描こうとしているものについても、できるだけ深く読み解いていきたいと思う。

スタジオコロリドは「ポスト・ジブリ」か?

 スマホのゲームアプリや、マクドナルド、カロリーメイトなど、ここ何年かに、スタジオジブリ風の雰囲気を何となく感じさせるアニメーションを使ったTV-CMが増えてきたと感じていたが、これらを精力的に作っていたのは、「スタジオコロリド」というアニメスタジオだった。漠然と、ジブリから独立したスタッフが手がけているのかと思っていたが、たしかにスタジオジブリ出身のアニメーター、新井陽次郎がコロリドに在籍し、実際にこれらCMの一部を作画・演出していた。

 このようなCM作品に代表されるように、ジブリの影響を一部感じさせる短編アニメーション作品を、7年のうちに多数手がけてきているスタジオコロリドは、穿った見方をすれば、スタジオポノック同様に、ジブリに影響を受けつつ、そういう作風を対外的な「売り」にしてきたともいえるだろう。いま「ジブリっぽさ」は、武器になり得る要素なのである。そんなコロリドの劇場用長編第1作となるのが、『ペンギン・ハイウェイ』 だ。監督は、スタジオのトップクリエイターである石田祐康(いしだ・ひろやす)。彼にとっても本作は長編初監督作である。

 石田監督のデビュー作は、大学在学中に制作した短編『フミコの告白』(2009年)だった。その物語は、意中の男子にフラれた女学生が、あまりにもショックだったのか、泣きじゃくりながら猛スピードで道を走っていると、急な階段で転げ落ちそうになり、必死で前に足を出し続けることで、さらに加速して事態がエスカレートしていくという内容だった。いつしかフラれたことなど観客に忘れさせてしまうような疾走感は、学生の自主制作のレベルをはるかに超える表現力だと感じさせた。

「フミコの告白」Fumiko's Confession

 このエクストリームな表現は、『ルパン三世 カリオストロの城』で、城に忍び込もうとするルパンがひょんなことから、意に反して急角度の屋根から滑り落ちていき全力疾走してしまうシーンに似ており、さらに『千と千尋の神隠し』にも同様のシーンが存在している。

「陽なたのアオシグレ」予告編ロングVer.

 石田監督の劇場用短編『陽なたのアオシグレ』(2013年)でも、やはり宮崎駿監督作を思わせる、鳥の飛翔シーンが話題となったように、石田監督の表現の根底にあるのが、「宮崎アニメ」であることは事実だろう。だから『ペンギン・ハイウェイ』でも、「売り」となっているジブリ風のテイストや、宮崎監督の匂いが感じられる映画になるのだろうと予想していた。

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