豊田利晃監督の本当の意味での“復帰作”に 『泣き虫しょったんの奇跡』で再び放たれた輝き

小野寺系の『泣き虫しょったんの奇跡』評

 『青い春』(2001年)や『ポルノスター』(1999年)を撮った豊田利晃監督は、「天才」と呼べる数少ない若手監督だった。演出におけるやることなすことが、とにかく才気走っていた。それは近年でいうと、例えば『溺れるナイフ』(2016年)、『おとぎ話みたい』(2013年)を撮った山戸結希監督のように、“映画の神様”がもし存在するのなら、そういう存在から愛される対象だと感じていた。

 豊田監督が2005年に、覚せい剤取締り法違反(所持)で逮捕されたという事件以降、この流れは変化を見せる。法的には執行猶予となったものの、もちろん当分の間は映画を撮るどころでなく、次の作品を嘱望されながらも数年間、監督の新作は撮影されなかった。その期間が歯車を狂わせたのかと思ってしまうほど、復帰後に発表したいくつもの作品は、それぞれに魅力はあるものの、以前ほどの圧倒的な才能は陰りを見せていたように感じられる。

 だが、今回の『泣き虫しょったんの奇跡』は違った。そのほほえましい印象のタイトルや、サラリーマンから将棋のプロを目指した人物のノンフィクション書籍を映画化するという企画という、これまでにない平凡な題材であるかと思われた内容は、以前のまばゆい輝きを取り戻しているように感じられたのだ。つまり本作は、天才・豊田利晃監督が帰還した、本当の意味での「復帰作」だったのではないだろうか。ここでは、そんな本作『泣き虫しょったんの奇跡』の内容と、豊田監督の足取りを追いながら、再び放たれた輝きの秘密を解き明かしていきたい。

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