エロティックな戸田恵梨香とピカレスクなムロツヨシ 『大恋愛』が描く人生のジレンマ

『大恋愛』戸田&ムロが愛おしい

「私みたいな普通の人間には、こういうピカレスクでエロティックな刺激が必要なんですよ」

 戸田恵梨香×ムロツヨシが、ラブストーリーの名手・大石静脚本で贈る金曜ドラマ『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)がついに始まった。あらゆることが合理的になった現代。体にいいリンゴも手の込む黒酢とはちみつが加えられ、手軽なパックで飲むことができる。ネットで注文すれば、季節を問わず、いつでも安定的に届く。プラン通りに進めていく人生は、平穏だ。だが、そこに刺激はない。ドラマのような大恋愛なんて、もってのほかだ。

 アップルパイは、うまいけど食べにくいのだ。手づかみでむしゃむしゃと夢中で食べれば、周囲を散らかしてしまう。だが、その本能的な刺激こそ恋なのだから、人生はジレンマだらけ。安定と刺激は相反するものを同時に味わいたい。穏やかな日常の中で、波乱に満ちた本能的な恋を疑似体験する。そんなドラマの存在意義を改めて感じさせてくれるような、物語のはじまりはじまりだ。

 完璧なフィアンセを持ち、何一つ不自由をせずに育ったヒロインに、不治の病が忍び寄る。そこに現れるのは、恵まれない生まれの才能ある男性。ふたりは恋に落ちて……一見すると、時代を超えて愛されてきた古典小説のような王道感。だが、そのファンタジーにも近いストーリーに、親近感を与えているのは、戸田×ムロの素に近い演技だ。

 戸田が演じる北澤尚の屈託のない笑顔が、急激に近づくふたりをリアルにする。人の懐に遠慮なく入っていく無邪気さは、彼女自身が持つ人当たりの良さあってのものだろう。そして、間宮真司に扮したムロも悲しみや孤独を背負いながら、求められた場面では明るく振る舞う男気を見せる。それは、彼自身が「親戚のもとで育てられたから、幸せな振りをしていた」と語る実体験と重なって見える。

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