賛否分かれる反応が拡散!? 阿部サダヲ×吉岡里帆『音量を上げろタコ!』は “沼感”を楽しみたい!

『音量を上げろタコ!』は“沼感”を楽しめる

 ロマンスとは、大昔のローマ人が大好きだった空想物語や通俗小説のことを元々は指していたそうです。大昔のローマではラテン語が公用語であり、ラテン語として記録に残すべき価値のないもの、くだらないものという意味もロマンスにはあるとのこと。でも、価値がないって、いったい誰が決めるんでしょうか? くだらないものこそ、サイコーじゃないスか! 脱力コメディ『時効警察』(テレビ朝日系)や『インスタント沼』(09年)、『俺俺』(13年)で知られる三木聡監督のオリジナル新作『音量を上げろタコ! なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』は、そんな由緒正しい“ロマンス”をめぐる映画です。

 物語のヒロインとなるのは、まったく無名のストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)。人気アーティストになることを夢見て田舎から上京してきたものの、自分で作ったオリジナル曲は恥ずかしくて、ささやくような小声でしか歌うことができません。自意識は強いけど、恥はかきたくないという面倒くさい女の子です。

 ふうかはとても声が小さく、自己主張しないため、人通りの多い駅前でバンドを従えて歌っていても、ギャラリーはチラ見しただけで彼女の前を通り過ぎる一方です。ふうかのバックで演奏していたバンドメンバーたちさえ去っていきます。バンドリーダー兼ふうかの彼からも別れを告げられますが、ふうかは最後に一緒に入った牛丼屋から彼が出ていくのを見送るだけで、見苦しく彼の足元にすがりつくことすらできないのでした。

 失敗するのは嫌、傷つくのも嫌、でも自分にしか歌えないオリジナルソングを歌いたい。そんな自己矛盾を抱えたふうかの前に、真逆の価値観を持つ男・シン(阿部サダヲ)が現われます。シンはリスクを負い、自分の肉体を痛めつけることを良しとする昔ながらのロックミュージシャンです。まったく相容れないはずの2人が路上で出逢ったことで、物語は動き始めます。これが『音量を上げろタコ!』、略して『音タコ』のあらすじです。物語の定番ともいえる「ボーイ・ミーツ・ガール」の逆、「ガール・ミーツ・ボーイ」、いや「ガール・ミーツ・オッサン」という分かりやすい図式です。

 生きていく上で、まったく役に立たない雑学ばかりを紹介した『トリビアの泉』(フジテレビ系)や深夜の長寿番組『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)など、三木聡監督は数々のお笑い番組を手掛けてきた構成作家出身なこともあって、三木監督作品はストーリーに直接関係のないギャグや豆知識がそこかしこに散りばめてあるのが特徴です。ふうかの伯父さん・ザッパおじさん(松尾スズキ)はちょっと油断すると、すぐに「いいの、いいの、ブライアン・イーノ」「義耳シェルター」など、洋楽好きな人じゃないとさっぱり意味不明な駄洒落を連発します。ちなみにザッパおじさんのザッパは、フランク・ザッパが名前の由来ではなく、大雑把だからザッパおじさんだそうです。くだらないにも程があります。これ、コメディやっている方への最大級の賛辞です。

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