The Wisely Brothers 真舘晴子が『レネットとミラベル』を観る 「アトラクションのような感覚さえある」

 真舘晴子が語る『レネットとミラベル』

 The Wisely BrothersでGt./Vo.を担当する真舘晴子が、最近観たお気に入りの映画を紹介する連載「映画のカーテン」。第4回は、エリック・ロメール監督の『レネットとミラベル 四つの冒険』をピックアップ。特集上映などでも上映される機会の多い、ヌーヴェル・ヴァーグを代表する1人であるロメールの作品に、どんな思いを抱いているのか。(編集部)

「人と人の間に起こる微妙な空気と、時たま訪れる素晴らしい瞬間」

『レネットとミラベル/四つの冒険』(c)Les Films du LosangeC.E.R

 私が初めて観たロメールの作品は『海辺のポーリーヌ』でした。当時はまだ高校生ぐらいで、父がビデオに録画していたものを「なんだろうこれ?」という感じで観たんです。その時はまだ映画自体にもそこまで興味がなかったので、「なんかすごい波の音が聞こえるなぁ」「海の音が聞こえる映画だなぁ」ぐらいにしか思っていなかったんですけど、そのあと大学に入ってフランス語を勉強するなかで、『緑の光線』など他のロメール作品を観て、やっぱりこの人はすごいぞと。他の監督たちと比べても、何か抜きん出ている部分があるなと思ったんです。ロメールが好きになったのは、それがきっかけでした。

 大学に通っていた当時、ちょうど有楽町の角川シネマでロメールの特集上映がやっていたんですけど、大学ですごく仲良くなった友達から「『レネットとミラベル』を観たんだけど、すごく良かったよ」と言われて。女の子2人が主人公の映画だし、映画の話もよくするその子が言うなら観てみようと思い、そこで初めて『レネットとミラベル』を観ました。

 ロメールの作品の何が好きかって、“音”なんです。風の音や車の音など、登場人物たちの会話に直接的に関係のない雑音が結構大きな音で入っているんですよね。セリフと現場の音を分けて録っているのかどうか分からないんですけど、その場の空気をそのまま全部録っている感じがする。私はそれがものすごく好きです。「こういうザラザラした足音がする場所を歩いているんだな」とか、「朝方で鳥がいっぱい鳴いてるんだな」とか、「ここはきっと都市からちょっと離れている街で、風がいつもより大きく吹いているんだな」とか、「きっとここは休養地みたいな場所なのかな」とか、「今は夏休みなのかな」とか……。映画の中の“音”から、登場人物やセリフ以外の部分のイメージがものすごく湧いてくるんです。まずそれだけで楽しむことができる。

 そして“レネット”と“ミラベル”、2人の女の子の出会いのシーンもとても素敵。ただ歩いているだけのシーンから自転車のパンクを助ける場面、その行程だけでもう映画になっていて、作品を楽しむ初めの要素の一つにもなっているんですよね。何かをする人間の行動というのは、角度や環境によって、とても美しくおもしろいものだと改めて感じます。2人は出会って仲良くはなるんですけど、ものすごく仲良くなるというわけではない。2人とも性格が全然違うから、意見がぶつかりあうんですよね。でもそれがリアルな友達っぽくていいなと。友達って、ずっと仲が良いわけじゃなくて、すごく仲良くなる瞬間もあれば、微妙な瞬間が続くこともある。レネットとミラベルの物語は、その感じがものすごく丁寧に描かれていて、リアリティーがあるんです。ロメールは、私たちでも経験したことのあるような人と人の間に起こる微妙な空気と、時たま訪れる素晴らしい瞬間と、どちらも映してくれる監督だと思います。

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