『大恋愛』ムロツヨシは現代的な“いい男”? 戸田恵梨香との10年愛に心掴まれる理由

『大恋愛』ムロツヨシは現代的な“いい男”?

 本当の悲しみは、幸せの中にある。『大恋愛〜僕を忘れる君と』(TBS系)を見ていると、そんなフレーズが脳裏をよぎる。若年性アルツハイマー病におかされたヒロイン・北澤尚(戸田恵梨香)と彼女を支える小説家・間宮真司(ムロツヨシ)。ふたりの10年愛は、すれ違いと別れ、涙と未来への恐れ、そしてそれ以上にたくさんの笑顔で彩られてきた。「若年性アルツハイマー病」というテーマ自体は決して目新しいものではない。にもかかわらず、なぜ多くの視聴者がふたりのラブストーリーに心掴まれるのか。その理由を解き明かしてみたい。

等身大の“イチャコラ”が憧れと共感を呼ぶ

 本作の主人公・北澤尚は、有能な医師。開業医の母を持ち、生活面で不自由を覚えたことはまるでなく、見た目も美人で貯金額は5000万円。ハイスペック、ハイステータスの、いわゆる高嶺の花だ。一方、相手役となる間宮真司はかつては文壇の新星として期待されるも、ヒット作が続かず低迷。現在は引っ越し屋のアルバイトで生計を立て、見た目も平凡、年齢は中年、貯金額は12万円と、条件面では決して優良と言いがたいキャラクターだ。日向の道を全速力で走ってきた女と、日陰の道で長くくすぶってきた男。そんなふたりが出会い、恋におち、病気の影に怯えながらも、今という時間を、懸命に、慈しむように生きる姿に、感動の声が広がっている。

 多くの視聴者が尚と真司を見て、「こんな恋がしてみたいな」と憧れるのは、きっとふたりの恋が悲劇だからではない。ふたりが、どこにでもいる平凡な私たちと同じように、相手を愛しいと想い、そばにいたいと願い、言葉にし尽くせない愛情を表現する。その姿がとても身近で、自分たちを見ているようだから、つい感情移入してしまうのではないかな、と思う。

 思わず真似したくなった第1話の居酒屋でのアフレコから始まって、ふたりのシーンは飾り気がまったくない。ほっぺにキスをしたり。鼻の下のホクロを押したら真司が変な声をあげておどけたり。美味しそうにアップルパイを平らげる真司を尚が連写したり。ラブシーンというよりも、手をつないだり、ハグをしたり、砕けた言い方をするなら“イチャコラ”している場面の方が、ずっと印象深い。一生の想い出となる結婚写真だって、キメキメのすまし顔ではなく、クシャクシャの満面スマイルだった。

 この自然体の雰囲気が、たまらなく愛らしいのだ。きっとスマホに彼氏の変顔フォルダをつくっている女子は大勢いるだろうし、大切な人とのデートで思い出すのは、高級レストランより安居酒屋のカウンターという人も少なくない。色っぽいベッドシーンよりも、真司が布団の中に入ってくるなり、まるでぬいぐるみを抱きしめるようにくっついてくる尚の方が、ずっとドキドキするし、幸せな気持ちをもらえる。そこに、この『大恋愛〜僕を忘れる君と』の魅力がある。

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