現地LAからアカデミー賞直前予想! 老舗映画賞が直面する、視聴行動の変化とインクルージョン

現地LAからアカデミー賞直前予想!

 2月19日、第91回アカデミー賞の投票が締め切られた。長年アカデミー賞を追っているベテラン記者でさえ、今年のオスカーは混戦模様で予想が難しいという。それは、映画界の過渡期とテクノロジーの発展による視聴行動の変化、そして政権の裏を返すように人々の間に広がっている社会的包摂性(ソーシャル・インクルージョン)が一気に訪れているからだと思う。昨年主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドが述べた「みなさん、インクルージョン・ライダー(包摂条項)をお忘れなく」というスピーチから、ダイバーシティ(多様性)はすっかりインクルージョン(包摂性)に取って代わられてしまった。俳優が出演契約を結ぶ際に、付帯条項として包摂性を盛り込んでおくと、撮影現場の出演者・スタッフともに性別・人種などの多様性を確保できる。ハリウッドは#MeToo運動の発動も相成り、まさにインクルージョン元年を迎えているといったところだ。

 そんな2019年、栄えあるオスカー像を手にするのは一体どの作品で、誰なのか。現地ロサンゼルスの空気とともに主要6部門と日本作品がノミネートされた外国語映画部門と長編アニメーション部門について予想をしてみたい。

*赤字は当確予想、青字は次点

主演男優賞

クリスチャン・ベール『バイス』
ブラッドリー・クーパー『アリー/ スター誕生』
ウィレム・デフォー『永遠の門 ゴッホの見た未来』
ラミ・マレック『ボヘミアン・ラプソディ』
ヴィゴ・モーテンセン『グリーンブック』

 今年のトピックとして、批評家と観客との間のズレが大きな話題となった。その標的になったのが『ボヘミアン・ラプソディ』で、公開前の批評は散々なものだったが、蓋を開けてみると興行成績は2億1231ドル(約233億円)と好調、ゴールデングローブ賞においてドラマ部門作品賞と主演男優賞を受賞している。『ボヘミアン~』は作品賞にはノミネートされているが、性的虐待疑惑でブライアン・シンガー監督が途中降板していることから監督賞からは必然的に除外、歌曲賞も映画オリジナルに限るため選外となった。5枠中4名がオスカーの掟とも言える実在する人物を演じているが、『ボヘミアン~』擁護派票がラミ・マレックに集中すると見て、ここは彼が本命。肉体改造が十八番になりつつあるクリスチャン・ベールは、アカデミー会員の多くを占める俳優たちの同情票を集めるかもしれないが、俳優の多くが所属する全米映画俳優組合賞もラミ・マレックが受賞している。

ラミ・マレック Aaron Poole / (c)A.M.P.A.S.
ブラッドリー・クーパー Kyusung Gong / (c)A.M.P.A.S.
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ラミ・マレック Aaron Poole / (c)A.M.P.A.S.
ブラッドリー・クーパー Kyusung Gong / (c)A.M.P.A.S.
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主演女優賞

ヤリッツア・アパリシオ『ROMA/ローマ』
グレン・クローズ『天才作家の妻 -40年目の真実-』
オリヴィア・コールマン『女王陛下のお気に入り』
レディー・ガガ『アリー/ スター誕生』
メリッサ・マッカーシー『ある女流作家の罪と罰』

 ほぼグレン・クローズ圧勝の波が来ている。クローズの7度目のオスカーノミネーションにして、理知的で深みのある『天才作家の妻』での演技は、オスカーにふさわしい。そして何より、メリル・ストリープが欠席の今年こそ、クローズがオスカー像を手にすることができる最大のチャンスだ。オリヴィア・コールマンに勝機があるとすると、批評家に人気の『女王陛下のお気に入り』が受賞できる部門が脚本賞だけなのを気にする層の動き次第。ただし、昨年秋のオスカー戦線開始直後は飛ばしていた『アリー/スター誕生』の息切れ失速の割を食ったレディー・ガガの受賞はもはや難しいと言われている。おそらく歌曲賞は取れるだろうが、監督賞候補を逃したブラッドリー・クーパー(主演男優賞も望み薄)と傷を舐め合うしかないのか…。

グレン・クローズ Kyusung Gong / (c)A.M.P.A.S.
レディー・ガガ  Kyusung Gong / (c)A.M.P.A.S.
ヤリッツア・アパリシオ Kyusung Gong / (c)A.M.P.A.S.
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グレン・クローズ Kyusung Gong / (c)A.M.P.A.S.
レディー・ガガ  Kyusung Gong / (c)A.M.P.A.S.
ヤリッツア・アパリシオ Kyusung Gong / (c)A.M.P.A.S.
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