ジョージ・クルーニー監督の作家性が光る いま語られるべき映画『サバービコン』のメッセージ

今語られるべき『サバービコン』のメッセージ

 先日開催された、第91回アカデミー賞で、天才黒人ピアニストと粗野なイタリア系の白人用心棒の交流が描かれた『グリーンブック』が作品賞を受賞したことが象徴するように、現在のアメリカ映画で最も注目を浴びるトピックが人種差別問題だ。その背景には、ドナルド・トランプ大統領の人種政策など、いまのアメリカの社会状況が関係していると考えられる。

 2019年3月6日にDVDがリリースされる、ジョージ・クルーニー監督、マット・デイモン主演作『サバービコン 仮面を被った街』もまた、その意味でいま語られるべき映画の一つだ。ここではそんな過去と現在の社会へのメッセージや、クルーニー監督の作家性、また主演のマット・デイモンとの関係についても述べていきたい。

モデルになった実際の人種差別事件

 芝生の庭があるマイホーム、会社へと通うマイカー、家族を守る夫と優しい妻と素直な子どもに囲まれた食卓。郊外にそんな幸せな家庭を持つという生活は、いまなお広告の表現などで目にするように、多くの人の共有する中流的な“幸せ”のイメージだ。

 そんなイメージを売り物に住人を呼び込んでいるニュータウン「サバービコン」に、あるアフリカ系アメリカ人の家族、マイヤーズ一家が引っ越してきたところから本作の物語は始まる。マイヤーズ家がアフリカ系だということに気づいた郵便配達人は、町の住民たちにそのことを警告する。白人ばかりの住民たちは一様に不安にかられ、地域の住民集会が開かれることになる。そこでは「白人の町だっていうから引っ越したのに」という不満の声をはじめ、差別的な言葉が飛び交う。

 その後、マイヤーズ家の周辺には500人もの近隣住民が押しかけてきて、黒人差別の象徴として使われることがある南部連合国旗を持って罵声を浴びせたり、十字架を立てて燃やし、何の罪もない家族を町から追い出そうとするところまで、事態は発展してしまう。

 驚くことに、このような描写はニューヨーク郊外の住宅地ペンシルベニア州レヴィットタウンで起きた実際の事件が基になっている。“レヴィットタウン”とは、郊外に大規模な住宅地を造成した「郊外(サバービア)の父」と呼ばれる、ウィリアム・レヴィットにちなんで名付けられた町のことである。ほんの60年ほど前に、差別を背景にした、おそろしく野蛮な暴力行為が、そんなニュータウンの住民たちによって行われていたのである。それを知ると、本作の随所で見られるアメリカ中流の“幸せの風景”が、無神経で毒々しいものにすら思えてくる。

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