『PSYCHO-PASS サイコパス』は現代の空気を反映 ディストピアに逆らう、熱い人間ドラマ描く

『PSYCHO-PASS』ディストピアに逆らう人間ドラマ

 SF小説の巨匠、フィリップ・K・ディック(以下ディック)は、1955年のコラム「サイエンス・フィクションにおけるペシミズム」(『フィリップ・K・ディックのすべて』ローレンス・スーチン編、飯田隆昭訳、ジャストシステム発行に収録)において、「進歩という概念、『今日より明るい明日』への不信がわれわれの文化環境全体に広がっている。最近のSFに見出される陰鬱で暗い風潮はこの不信の結果であって、原因ではない」と語っている。

 空想科学であるSFは、今日にはない科学を夢想する点で、現代が舞台であろうが、未来が舞台であろうが、未来についての現在の我々の欲望を反映するものだ。未来に対する、現在の我々の欲望が科学の進歩も、SFというジャンルの発展も支えている。

 2019年現在の社会は、かつてSF小説で欲望された、あるいは恐怖された現象を実現させ始めている。人はネットワークによって相互に繋がれ、人間の精神は拡張され、より自由を手に入れた。同時に、地球レベルのネットワークが実現した結果、究極の監視社会も実現しようとしている。

『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.2 First Guardian』(c)サイコパス製作委員会

 SF世界の想像力に現実が追いつききつつあることを示唆する現象の一つとして、個人的に印象深いのは、中国の「信用スコア」のニュースだ。人の信用度をスコアによって算出し、信用度が低ければ公共機関の利用すら制限されることもあるという。

 このようなことが現実に起こりつつある現代社会で、技術の進歩に「今日より明るい明日」を期待すべきかどうか、筆者にはわからない。ただ、少なくとも両手を挙げて絶賛する気分ではない。そういう気分の人は、それなりに多いのではないだろうかという気がしている。

 『PSYCHO-PASS サイコパス』はそんな時代の空気を存分に吸い込んだ作品だ。人が数値によって管理されるディストピアを描いた本作は、技術の発展によって究極の管理社会に向かいつつある世界の風潮を確実に反映し、先取りしたと言っていい。しかしながら、本作はそんなディストピアに絶望してたまるか、という人間の強い意思をも感じさせる作品だ。

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