『ミュウツーの逆襲』なぜ今3DCGでリメイク? 近年のポケモン映画が置かれる状況から読み解く

 毎年恒例であったポケモンの劇場版シリーズに大きな注目が集まっている。シリーズ1作目ながらも世界的に高い興行収入を記録し、ファンからも高い人気を誇るポケモン映画を代表する名作『ミュウツーの逆襲』をCGアニメとしてリメイクされることが発表されたためである。この記事では本作がもつ魅力と共に、なぜこのタイミングでCGとしてリメイクしていくのかを考えていきたい。

 ゲームの大ヒットにより子供を中心に高い人気を集めていたポケットモンスターシリーズの初の劇場版作品として注目を集めていた『ミュウツーの逆襲』は1998年7月に公開された。その結果、日本国内のみで76億円という高い興行収入のほか、北米を中心に世界各国で歴史的な大ヒットを記録している。

 本作の魅力の1つが遺伝子組み換え食品の安全性に対する問題や、羊のドリーの誕生に伴う倫理問題の面からも世界的に論争を巻き起こしていた遺伝子の解明と遺伝子操作をテーマに添えた点である。今作で中心的な存在である伝説のポケモンのミュウツーはミュウの遺伝子を改造することによって作られている。人間に作られた生命、あるいはコピーのポケモンを通して、その存在の是非や科学の功罪に対する向き合い方など、社会的な一面が発揮されていた。

 同時にミュウツーはミュウというオリジナルの存在がいる一方で、自身がコピーの存在であるという悩みを持ち続けている。この「己とは何者なのか?」という自己の存在理由の探求もテーマとしている。ミュウツーの自己の存在に対する疑問は”我思う、故に我あり”というデカルトの哲学と通じるものがあり、青春期の若者たちを描いた実写作品にも多く見受けられ、普遍的な問いを観客に投げかけている。

 また脚本を担当した首藤剛志は、目を守る機能として涙を流す動物はいるものの、感情によって涙を流す動物は人間だけだと言われているという説を紹介している。しかし、作中のピカチュウが涙を流し、それが他のポケモンたちにも波及するという名シーンがあるが、本作で描かれたポケモンたちは単なる動物やモンスターではなく、人間に近い感情を持つということを表現している。またオリジナルの存在であっても、人間に作られたコピーであっても、感情や思考を持つという点において何も変わらないことを示している。

 ゲームでは、ポケモンたちを戦わせることでレベルを上げていき、強力なライバルと戦い勝ち抜くというシステムだが、ポケモンバトルの残酷さなども感じさせることにより、戦うだけが全てではないという平和的な思想も伺うことができる。本作は最先端の科学に対する懸念と倫理問題、若者たちが抱える内面の問題、平和的な思想を啓蒙する教育的な面など多くの見どころを兼ね備え観客の涙を誘う名作となった。

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