ジャッキー・チェンはいつだって“何か”を仕掛けてくる! 『ザ・フォーリナー』は新たな代表作に

シリアスなジャッキー・チェンの魅力

 アクション映画界の生きる伝説ことジャッキー・チェン。ここ日本ではレコードを出し、テレビでTOKIOやウッチャンと対決するなど、お茶の間でも広く人気を博した男である。もちろん日本だけではない。ガラスと見れば突っ込み、高い所から落ちまくり、あらゆる乗り物からブラ下がる。彼が見せた命がけのスタントは世界中の人々を熱狂させ、世界中に大きな影響を残している。今でも高いビルを見ると「ジャッキーなら、こう滑り落ちるな」と反射的に考えてしまう人間も多いという(同じ症状で「ゴジラなら、あそこをこうブッ壊すだろうなぁ」と考える例もある)。

 そんなジャッキーであるが、気がつけば御年65歳。アクションスターとしての肉体的限界はとっくの昔に超えており、(恐らく)世界で一番有名な中国人でもあるせいか、政治的な部分でも制限が増えており、近年は色々な意味で受け止めるのが難しい映画が多かった。古代の巻物を手に「こうした文化財は大切にするべき」と悪党を叱り飛ばした直後、その巻物を放り投げて悪党と格闘を繰り広げ、最終的に敵味方関係なく踊って終わる『カンフー・ヨガ』(2017年)を観たとき、「ジャッキー、俺たちは遠くへ来すぎたよ……」と困惑したものだ。ただ、この映画は彼の息子が大麻で捕まった直後の作品であり、落ち込んだ奥さんが「この映画に出てほしい」と推薦したという。そう思うと味わい深いものがある。また、彼の65歳という年齢を冷静に捉え直す必要もある。東野圭吾原作の『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が中国で映画化されたとき、彼は雑貨屋の店主役を演じていた。この役は日本の映画版だと西田敏行が演じていた役である。つまり、今のジャッキー=西田敏行だ。西田敏行にヘリからブラ下がれと期待するのは、さすがに酷だと思う(※西田敏行は71歳)。

 話を西田敏行からジャッキーに戻そう。まさに人生の酸いも甘いも味わってきたジャッキーだが、ここに来て新たな代表作をモノにした。現在絶賛公開中の『ザ・フォーリナー/復讐者』(2017年)』である。娘を爆弾テロで失った元特殊部隊の男が、あの手この手で巨悪を追い詰めていく……と、物語こそシンプルだが、本作は近年のジャッキー映画でも屈指の……もしかすると、キャリア史上に残る1本に仕上がっている。特に演技の面においては、間違いなくトップレベルに入るだろう。

 実際、本作はアクションシーンの尺が明らかに短い(ただし殺す気満々の格闘は緊張感もあって大満足!)。この映画は間違いなくジャッキーの「アクション」ではなく、「芝居」を見せることに重きが置かれている。ヨボヨボと効果音が聞こえてきそうな後ろ姿や、愛する娘に接するときの優し気な、それでいて陰のある笑顔。そして悪党を見つめる感情を失った目、焼けたナイフを傷に押し付ける姿の痛々しさ。笑顔で若々しい“いつものジャッキー”を知っていればいるほど、その姿から目が離せないはずだ。間違いなく新境地といえるだろう。

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