『イングランド・イズ・マイン』マーク・ギル監督が語る、ザ・スミスへの思いと芸術家としての姿勢

『イングランド・イズ・マイン』監督が語る

 マーク・ギル監督の長編デビュー作となる『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』が全国公開中だ。本作は、1980年代、イギリスのミュージックシーンを席巻した伝説のバンド、ザ・スミスのボーカリスト、スティーヴン・モリッシーが、若き日の苦悩と挫折を乗り越え、ミュージシャンとして生きる決意を描いた青春音楽映画となっている。

 今回リアルサウンド映画部では、90年代にはミュージシャンとして世界中をツアーでまわり、短編映画ではアカデミー賞ノミネートも果たすという異色のキャリアを持つギル監督にインタビュー。日本の写真家からの影響、主人公となるスティーブン・モリッシーを演じたジャック・ロウデンやザ・スミスへの思いについても話を聞いた。

 「日本の写真家にもすごく影響を受けている」

マーク・ギル監督

ーー日本はいかがですか?

マーク・ギル(以下、ギル):好きな日本のブランドがたくさんあるから色々買ったよ。BEAMSやTROVEに東急ハンズ、ニトリにも行った。代々木公園ではロカビリーダンスをやっている人たちもいたね。

ーーInstagramで来日の様子を拝見しました。スマートフォンで撮影したとは思えないカメラワークでした。

ギル:ありがとう。日本の写真家にもすごく影響を受けている。

ーー好きな日本の写真家は?

ギル:深瀬昌久に森山大道、山元彩香……たくさんいるね。映画監督にしてもフォトグラファーにしても、イギリスよりも、アメリカや日本の映像作家に影響を受けている。僕はポール・トーマス・アンダーソンの大ファンなんだ。他にもスピルバーグの初期やロマン・ポランスキー、黒澤明の『悪い奴ほどよく眠る』『野良犬』『生きる』......どの監督や作品にも共通しているのが、構成がとてもシンプルということ。『イングランド・イズ・マイン』も監督の存在をこれ見よがしに出すような作品ではなく、シンプルに撮ることを心がけた。

ーー『イングランド・イズ・マイン』はカメラワークも印象的でした。

ギル:撮影監督をやっているニコラス・D・ノラウンドは75歳で、68年のザ・ローリング・ストーンズのハイドパーク公演や、77年のセックス・ピストルズの撮影もしていたんだ。僕が最初に彼の仕事を知ったのは、ピーター・ストリックランドの『バーバリアン怪奇映画特殊音響効果製作所』『The Duke of Burgundy』(原題)の2本の映画だ。カメラワークが気になって、どんな若造が撮ったんだろうと思ったら、僕の親父より年上でびっくりしたよ(笑)。

ーーギル監督は90年代後半には、ジョイ・ディヴィジョン、ニュー・オーダーのベーシストであるピーター・フックのバンド・モナコで活動するなど音楽のキャリアも長いです。元々映画や写真に興味があったんですか?

ギル:初恋をしたのは音楽だけど、その間にも写真を撮ったりグラフィックデザインだったり、何かしらクリエイティブな仕事はしていた。だからいつか作品を撮りたいという思いは昔からあったね。最後に組んでいたバンドではユニバーサルと契約して、ツアーに出ている間も8mmフィルムでその様子を撮ったりしていた。だけど、ある日「いまいちバンドにノレない」という自覚が出てきて、そろそろ映画に転向しようと、持っていたギターを全部売って、映画学校の学費に充てたんだ。

ーー『イングランド・イズ・マイン』はモリッシーがモチーフの映画ですが、監督ご自身のそうしたプライベートな部分も反映されていますか?

ギル:ノウランドには「これは君の物語だよね」とよく言われていた通り、自分の要素は多分にこの映画に入っている。『イングランド・イズ・マイン』は、モリッシーの物語であると同時に、僕の物語であり、みんなの物語だと思う。モリッシーの歌詞はパーソナルだけど、誰しもが自分自身にあるものを投影していて、だからこそ普遍性を獲得した。そういう風に自分自身の内部にあるものから作品を作るべきだと思う。僕は、自分で脚本を書いて自分で撮りたい。ハリウッドでブロックバスター映画を撮ることは悪いこととは思わないけど、それはやりたくないんだ。

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