宮藤官九郎が『いだてん』に仕掛けたマジック 中村勘九郎らの“走り”を振り返る

宮藤官九郎が『いだてん』に仕掛けたマジック

 大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)は早くも前半戦が終わり、田畑政治(阿部サダヲ)らを中心とした後半戦に突入したわけであるが、それにしても、あっという間に駆け抜けた半年の放送であった。金栗四三(中村勘九郎)による「走る」ことへの挑戦、後に古今亭志ん生(ビートたけし)となる若かりし頃の美濃部孝蔵(森山未來)の生き様、日本人のオリンピック出場、駅伝の開催、女子スポーツ、関東大震災、等々。気づくと視聴者である私たちは、まるで沿道でランナーを応援するときのように、『いだてん』というドラマの中で汗を流し、試行錯誤し、笑い、涙する一人一人に「頑張れ!」とエールを送っている。

 四三、スヤ(綾瀬はるか)、シマ(杉咲花)、三島弥彦(生田斗真)をはじめとした天狗倶楽部の一同、孝蔵、村田富江(黒島結菜)、人見絹枝(菅原小春)、小梅(橋本愛)、清さん(峯田和伸)、嘉納治五郎(役所広司)……。『いだてん』の世界を作り上げるみなが、それぞれの役柄の中で、十人十色の光を放っている。四三のように本当の意味でアスリートであるか否かに関係なく、全員が一人の“アスリート”のように映る。思うに、これこそが宮藤官九郎が本作に仕掛けたマジックなのだ。

 毎話の放送を受けて、『いだてん』の視聴者は思い思いにその魅力、素晴らしさを語る。それはちょうど、オリンピックやパラリンピック、あるいはスポーツの試合を観戦した人々が、「あの瞬間、びっくりしたよね!」とか、「いや、あの流れは感動した!」と口にするときのように。『いだてん』を観た友人同士で、家族同士で、あるいはSNS上の顔の知らない誰かとともに、それぞれが「あの展開は本当に震えた」「あの場面はもう一度観てみたい!」といった風に語りあって、その体験を分かち合う。そして、それはいつしかまだ観ていない人にも伝えたくなる。

 もちろん本作の中には、胸を締め付けられるような四三の苦悩や、関東大震災の描写などもあり、全てがワクワクと感動の物語というわけではないため、単純にスポーツ観戦とは並べられない。ただ、観るとつい“誰かに伝えたい”、“誰かに知ってほしい”と思う要素が随所に散りばめられている。それぞれの視聴者が、四三をはじめとする多くの人々にエールと、祝福と、拍手と、祈りを捧げずにはいられない、そんなドラマなのである。登場人物たちが、日本人にとっての初めの一歩を踏み出した人々という“偉人”たちであることには変わりないのだが、私たちと同じように悩み苦しみ、そして楽しんでいる市井の人々だからこそ、視聴者も身近には感じずにいられないのだろう。

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