『アラジン』も興行収入100億円の大台へ なぜ日本では音楽映画が大ヒットするのか?

音楽映画、なぜ日本で大ヒット?

  昨今、音楽をテーマにした映画作品は2016年米公開『ラ・ラ・ランド』をはじめ、昨年の『グレイテスト・ショーマン』『ボヘミアン・ラプソディ』『アリー/スター誕生』など記録的大ヒットが続いている。Netflixなど動画配信サービスにより自宅での映画鑑賞が以前よりも一般的となった現在において、多くの人々を映画館へ向かわせている音楽映画が持つ魅力を分析しブームの理由を探る。

空前の音楽映画ブームの理由

 音楽映画を劇場で鑑賞する醍醐味の一つは、充実した音響環境のもと他の観客たちとともに大迫力の映像を楽しむといった“劇場でしか味わえない”映画体験を得られるという点であろう。例えば、昨年の『ボヘミアン・ラプソディ』における伝説のライヴ・エイドのステージを見事に再現したパフォーマンスシーンは「劇場で観て良かった!」という口コミや「もう一度あのシーンを映画館で観たい」というリピーターによって観客を増やし、2週目前週比9.6%増、3週目1.7%増と興収を伸ばしてロングラン上映に繋げた。また昨年公開のアクション作品『ベイビー・ドライバー』は、圧倒的な迫力のカーチェイスシーンと多様な楽曲群によるサウンドトラックの見事な融合が評判を呼び、当初の40スクリーンのみという公開規模から上映館を増やし126スクリーンにまで拡大した。一般的な劇場公開作品が初週末をピークに興収を落としていく傾向があることを考えればこれらの現象は異例の事態であり、いかに多くの観客が“劇場体験”を求めているかを表している。

『ボヘミアン・ラプソディ』(c)2018 Twentieth Century Fox

 映画史研究者のミズーリ大学ナンシー・ウエスト教授によれば、近年における音楽映画を通じて得られる劇場体験を求める人々の心理は、現在の社会的風潮に関連性が見られるという。ウエスト教授は、映画史全体をみて音楽映画の盛り上がりと社会情勢を比較すると一定の傾向が見て取れると分析しており「政治情勢の緊迫などで人々が悲観的に考えうつ病などが激化している時期は、娯楽による逃避が求められる。特に非現実性の強いミュージカルは、現実逃避のための理想的なジャンルといえるだろう。私たちが非常に悲しい思いをしているこの時代、不安を遠ざけ、どこかへ連れて行ってくれる音楽映画が求められている現象は当然だろう」「音楽は、観客を物語に没頭させる。映画館興行が危機に瀕している瀬に、ハリウッドは音楽映画を武器に動画配信サービスと競争しているのが現状だ」と語っている。

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