杉野遥亮が体現する、グレーの世界の不気味さ 『スカム』反社会的勢力と日常はすぐ隣にある

『スカム』杉野遥亮が体現する不気味さ

 振り込め詐欺の内幕を描いた『スカム』(MBS/TBSドラマイズム)は、リーマンショックの影響で新卒切りにあった青年・草野誠実(杉野遥亮)が主人公のドラマだ。

 毎月の学生ローンと癌になってしまった父親の高額の医療費を稼ぐために、友人から紹介された高額のバイトを引き受ける草野。しかし、友人が現金を持ち逃げしたために、集金屋の山田良(山中崇)に捕まってしまう。その後、なぜか詐欺グループの上司に才能があると見込まれた草野は、振り込め詐欺の実行者を育成する研修に参加させられる。

 振り込め詐欺を題材にした本作には、反社(反社会的勢力)と呼ばれる人々が多数登場する。集金屋の山田、詐欺グループの店長・毒川馨(和田正人)、裏社会のトラブルを解消する謎の便利屋・小沼(柳俊太郎)など、闇社会に潜む恐い男たちが暗躍する姿は本作の見どころだが、『スカム』の恐さは、反社の暴力的な振る舞いではなく、彼ら反社の詐欺行為と、わたしたちの日常がたいして離れておらず、すぐとなりにある地続きのものであるということを嫌というほど実感させられるからだ。

 それを体現しているのが主人公の草野だ。

 本作は草野が一人前の詐欺師として成り上がっていく姿を描いた一種のピカレスクロマンだが、彼自身は親と同居する普通の青年で、寂れた町にあるオフィスに地味なスーツを着て通う姿は、外からみれば、どこにでもいるサラリーマンと変わらない。

 『スカム』を見ていてゾッとするのは、実は闇社会のあれこれではなく、危険な仕事をしながら母親と同居し、いっしょにご飯を食べている草野の姿だ。草野の日常と、母親の日常は離れているようだが実は地続きで、やがて母親にも秘密を知られてしまう。その時になんと母親も草野の仕事に加担し、訪問介護の仕事で調べたお金を隠し持っている老人たちの名簿を草野に渡してしまうのだ。

 そんな母親も被害に巻き込まれてしまうのが、本作の容赦のなさだが、友人や母親との関係といった草野の細々とした日常がちゃんと描かれているからこそ、反社が暗躍する振り込め詐欺等の反社会的行為のリアリティが倍増しているのだ。

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