「Your Song」誕生シーンが頂点に 『ロケットマン』に見る、エルトン・ジョンの性質と美徳

『ロケットマン』E・ジョンの性質と美徳

 ピアノと奇抜な衣装をトレードマークに、グラミー賞を5度受賞、7枚連続でビルボード1位を獲得した記録を持つ世紀のヒットメイカーにして、イギリスを代表するシンガー・ソングライター、エルトン・ジョン。『キングスマン』シリーズでブレイクした俳優タロン・エジャトンが、その半生を演じた伝記映画が本作『ロケットマン』だ。

 日本でも異例の大ヒットを記録した、クイーンのボーカリスト、フレディ・マーキュリーを主人公とした伝記作品『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)で、ノンクレジットの後任監督を務め、エジャトンとは『イーグル・ジャンプ』(2016年)でも仕事をしているデクスター・フレッチャーが、正式に監督として手がけた作品としても話題の本作。その出来はどうだったのだろうか。ここでは、『ロケットマン』の優れた特長を挙げながら、そこから与えられる違和感も含めて作品を評価していきたい。

 まず圧倒されるのは、タロン・エジャトンの歌唱力とパフォーマンスである。『ボヘミアン・ラプソディ』とは異なり、ヒットナンバーを人生のところどころにあてはめたミュージカル作品として作られている本作で、エジャトンが躍動し、自身の声で名曲群を見事に歌いあげている。彼がここまで多才な俳優だったという事実に、観客の多くは驚いたのではないだろうか。そして、『キングスマン』シリーズで演じてきた、イギリス労働者階級出身の若者というキャラクターが、エルトンの出自と重なっている部分も奏攻しているといえよう。

 そして、二人三脚で仕事をしてきた作詞家バーニー・トーピンを演じるジェイミー・ベル(『リトル・ダンサー』『リヴァプール、最後の恋』)、エルトンの心理を支配的な影響を与え続けた母親を演じる、意外な配役のブライス・ダラス・ハワード(『マンダレイ』『ジュラシック・ワールド』シリーズ)や、マネージャー、ジョン・リード役のリチャード・マッデン(『ゲーム・オブ・スローンズ』『シンデレラ』)らも想像以上の好演を見せるなど、本作はキャスティングも見事である。

 このあたりは、さすが『キングスマン』シリーズの監督でもある、マシュー・ヴォーンのプロデュース作というところだろう。さらに、『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017年)に出演し、異様にハッスルしていた、伝記の“本人”であるエルトン・ジョン自身も製作に加わっていることが、本作の大きな特徴であろう。自分の伝記を、自分で製作する。本人は監督にかなりの自由を与えたというが、その一方で、“自分の伝記作品がいつか作られるのなら、手の届くところでやってくれた方がいい”といった判断があったのかもしれない。

 エルトンが製作を務めていることが作品に影響していると思われる大きな部分は、ポップスターに対する観客の客観的な興味というより、あくまでエルトンの主観的な視点から、きわめてパーソナルな物語を描いているところだ。レジナルド・ドワイトという“ダサい”本名から脱皮して、「なりたい自分になる」といった感情や、アメリカでの飛躍的成功を、『クロコダイル・ロック』の演奏とともにパフォーマンス通り“宙に浮いた”ような主観的な感覚で表現したり、さらにアーティストとしてとてつもない成功を収めても、母親や父親との関係に苦しめられ続けているといった描写は、本人の実感を下敷きにしたところが大きいはずである。そのなかで最もリアリティを感じるのは、自身がゲイであることで、家族や世間からの偏見に悩み、その反動として、不自然なまでに衣装やパフォーマンスを派手にしていった、複雑な心情である。

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