『だから私は推しました』20代Pが語る、地下アイドルを描いた意図 「“推した”後に残るもの」

20代Pが語る『だから私は推しました』の裏側

 『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』と2作続けて高い評価を得たNHK土曜23時半放送の「よるドラ」枠。その第3弾として、ドラマファンから支持されているのが、地下アイドル×女ヲタをテーマとした『だから私は推しました』だ。周囲からの評価ばかりを気にし、生きづらさを抱えた主人公・愛(桜井ユキ)が、ひょんなことから地下アイドル・サニーサイドアップのステージを観たことで、その人生を変化させていく。

 リアルな地下アイドル描写と“沼”に堕ちていく主人公の残酷過ぎるほどのリアリティ、第1回で衝撃を与えたミステリー仕立ての構成など、異色のドラマはいかにして生まれたのか。『おんな城主 直虎』(NHK総合)、『義母と娘のブルース』(TBS系)を手掛けた名脚本家・森下佳子とは、どう作品を生み出していったのか。27歳で本作のプロデューサーを務めた高橋優香子氏にじっくりと話を聞いた。

アイドルの“闇”からも目を背けずに描く

高橋優香子プロデューサー

ーーこれまでの「よるドラ」作品は非常に高い評価を得ていました。第3作目を手掛ける上でのプレッシャーはありましたか。

高橋優香子(以下、高橋):企画自体は『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』の放送前から決まっていました。なので2作品と比べてのプレッシャーというよりは、挑戦的な枠に参加できる喜びの方が大きかったです。前2作品が放送された後も、それが多くの方々に愛されていたことが私自身も嬉しかったですね。「よるドラ」枠を楽しみにしてくれる方々の期待に応えたいという思いが強くなりましたし、制作中も大きな励みになりました。

ーー「よるドラ」はドラマを観なくなった若者世代へ向けて企画したと聞きました。地下アイドルを題材とした理由もその点が大きかったのでしょうか。

高橋:そうですね。それに、純粋に「自分だったらこういうドラマが見たい」と思うものをやりたいと思いました。自分が20代だからこそ見つけられるテーマや、伝えたいと思うメッセージでドラマを作れたらと。今回、地下アイドルを題材としたのは、アイドルたちを支える“ヲタク”を主役に置くことによって、何かに打ち込むこと、誰かを応援することの清々しさを描きたかったからです。もちろん、私自身が女性アイドル好きというのがまず前提にあったのですが(笑)。

 第1回の主人公・愛は、SNSのいいねの数を気にして、自分の意見よりも周りの意見に合わせてしまうような女性でした。私自身も愛ほど極端ではないにせよ、そういった側面はあります。自分がどう感じるかよりも、周りがどう思っているかを重視してしまうというような。でも、本当に好きなものに打ち込めること、そして自分の好きなものを大事にすること、自分がしたいことをすることって、当たり前のようだけどすごく素敵なことですよね。それが本作の登場人物を通して伝わっていたら嬉しいです。

ーー現実世界でもアイドルとファンの関係が問題になる出来事がありましたが、本作の中でもその問題は描かれています。いわば、アイドルビジネスの“負”の部分はどこまで描こうと考えていたのでしょうか。

高橋:「アイドルって可愛い! アイドルヲタクって素晴らしい!」というかたちで明るい部分だけ描くことももちろんできたのですが、それは真実ではないなと。熱心に応援する気持ちも、一歩間違うと犯罪へとつながってしまうケースもある。アイドルとファンの距離が近すぎることで生まれる危うさから、目を逸らすことはできないと思っていました。そういった意味で、サニーサイドアップのメンバー同士のいざこざ、瓜田(笠原秀幸)に象徴される狂信的なファンの存在なども盛り込みました。だからといって、本作を通して「ファンとはこうあるべき、アイドルビジネスはこうあるべき」という“答え”を出したかったわけではありません。主人公・愛、その推しメンであるアイドル・ハナ(白石聖)、そして瓜田らの姿を通して、視聴者の皆さんが何かを考えるきっかけになってもらえればと。

ーー第1回を観て驚いたのが本作がミステリー仕立ての構成だったことです。これは脚本を手がけた森下佳子さんからの提案だったのでしょうか。

高橋:森下さんや演出と相談しながらこの構成にすることを決めました。やはり、“地下アイドルと女ヲタ”というテーマだと、その分野に興味がある方にしか届かない可能性がある。ミステリーの要素を取り込むことによって、普段アイドルに興味のない方々にも「次はどうなるんだろう?」と楽しんでもらえると思いました。アイドルファンあるある、アイドルあるあるを楽しんでもらうと同時に、自分の価値観をどこに置いていいか分からず悩む愛に共感したり、ミステリー部分にドキドキしたり、楽しんでいただくためのいろんな入口を用意したいという思いが強かったです。

ーー愛が取調室で回想していくという形は初期段階から構想にあったのでしょうか。

高橋:第1回と最終回で愛がどう変化しているか、まずはそれを軸に森下さんに脚本を書いていただきました。どちらかと言えば、最初は愛とハナの物語を直球で描いていたと思います。そこから視聴者の皆様に毎話楽しんでもらうためにどうするかというところで時間軸をずらし、最終回に向けて逆算していく今の形になりました。

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