『セミオトコ』を成立させた山田涼介の「アイドル力」 7日間で見せる「一代記」的な演技の幅

 羽化したセミが人間の姿になり、自分の命を救ってくれたアラサー女子・由香(木南晴夏)を幸せにするため、7日間を共に過ごすという山田涼介主演のラブストーリー『セミオトコ』(テレビ朝日系)。

 視聴率こそ3~4%と低空飛行だが、本作は脚本を手掛ける岡田惠和と、主演・山田涼介の「イイとこどり」のような魅力的な作品となっている。

 本作を見るまでは気づかなかったが、この脚本家と役者の相性は実に良い。両者に共通しているのは、“リアル×ファンタジー”の絶妙なミックス感である。

 舞台は、都心から少し離れた国分寺のアパート「うつせみ荘」。そののどかさは、岡田脚本朝ドラ『ひよっこ』(NHK総合)を思い出させる空気だし、やついいちろう、南海キャンディーズ・山崎静代という「ひよっこファミリー」も出演している。

 また、「セミオトコ(通称セミオ)」である山田は、見るもの聞くもの触れるものすべてが新鮮で不思議で、「〇〇って何ですか?」と聞き、「なんてすばらしい世界なんだ!」と感動で目を輝かせる。

 最初は、このキャラも作品も、長瀬智也主演の岡田作品『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ系)に似たものになるのかと想像した。しかし、漫画の世界から飛び出してきたはらちゃんが現実世界の中で様々なことを学び、成長していくのに対し、本作の場合、大きく成長するのはセミオよりもむしろ「うつせみ荘」の人々のほうなのだ。

 例えば、アラサーヒロインの由香こと「おかゆ(おおかわゆかという本名から、自身がつけた悲しきニックネーム)」(木南晴夏)は、幼少時から家庭でも学校でも、大人になってからは職場でも孤立している。しかし、セミオに出会ったことにより、まるで殻が破れたように、それまで心の中に溜め込んでいた言葉が急激に溢れ出すように、たくさん喋りはじめ、笑い、周囲と打ち解けていく。

 おかゆの思い出としてしばしば挟み込まれる「ヤンキー家族」もまた、最初は陰惨な様子で描かれていたが、おかゆの心が開放されていくにつれ、おバカで明るく可愛い家族の描写に変わっていく。

 つまり、別のフィルターで見れば、これまでと同じはずの世の中が違って見えてくるということ。ここにセミオが度々満点の笑顔で高らかに言う「なんて素晴らしい世界なんだ!」の影響が見えてくる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アクター分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる