「若者の映画館離れ」は本当か? 立川シネマシティが「次世代育成計画」に込めた思い

 東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】等で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第40回は“「若者の映画館離れ」は本当か?”というテーマで。

映画ファンであればあるほど“勘違い”が生まれる?

 少し前に「若者の東京離れ」というのがニュースになってましたが、最近は「若者の○○離れ」、あんまり言われなくなりましたね。飽きられたからなのか、もはや常識化したからなのか、いろんなものが案外そうでもなかったことがわかってきたからなのか、わかりませんが、じゃあ「若者の映画館離れ」はどうなのか、と編集部からお題をいただいたので、このテーマで書いてみようと。

 ただし、これ地域や劇場の性格によって、かなり差があるように思えます。そもそも若者人口が激減している地域とか、あるいは実質車でしか行けないシネコンだと高齢者や未成年同士では行きづらいとか。均(なら)して一般論で語っても、このコラム的にはあまり有意味とも思われませんので、広く見渡しつつも、シネマシティでの現状と将来への戦略について書こうと思います。

「AmazonプライムビデオやNetflixなんかで、安くどこででも気軽に観られるのに、若い人は映画館なんか行かないでしょ」

 というのは、まあ誰でもぱっと思い浮かびます。これはもちろんその通りでもありますが、そうばかりでもありません。日本での本格的なネット配信が始まってから4年が経ちましたが、この間も映画館全体の収益に大きな変化はありません。2015年以前より数字はわずかに上がっているのです。

 立川シネマシティでは、2019年の4月から料金の改定を行いました。シニア割引の対象を70歳に引き上げ、夫婦50割を廃止しました。代わりに、24歳以下の有料会員6ヶ月会費を600円から100円に引き下げました。また料金移行キャンペーンで60歳以上の6ヶ月会費も100円に引き下げています。ただし、一般料金は1,800円のまま、1,100円の割引もキープです。

 この有料会員になれば、土日祝1,300円/平日1,000円になるので、大学生や社会人なりたての方は、大幅に値下げになるというわけです。これを「次世代映画ファン育成計画」と名付けました。

 これを発表した時、このような批判がありました。「平日の昼間の座席を埋めるシニア層をないがしろにするのは間違いだ」と。あるいは「観客席を見渡せば高齢者がスゴく多く、社会は高齢化していくのにまったくの愚策だ」と。こういう批判が起きるのはもちろん想定していました。これから増えていく可処分所得も時間も多いシニアをこそ取り込むことこそ、映画館の生きる道ではないか、という考え方ですね。これは映画を観るシニアが増えているのに、ということを前提にしていると思います。あるいは、若者が激減しているからテコ入れとしてやるのだろう、という推察が前提でしょう。

 僕も人のこと言えませんが、人間は自分の目で見たものは正しいと思い込んでしまうものです。年に50本、100本と観るような映画ファンであっても、1年に公開される映画は1,200本もあるのですから、やはり選り好みしています。必然、自分と同世代が興味を持つ作品選定になります。少女マンガ原作の恋愛モノばかり追いかけている60代というのは多くはないでしょう。

 だから映画ファンであればあるほど、自分と同世代が「観客の主流」と感じやすいのは致し方ありません。また自分と離れた世代、例えば60代以上の人はパッと見で10代と20代との区別はつきづらいだろうし、10代、20代は50代、60代を見分けられないと思います。加えて、世代によって「若者」「中高年」の定義自体が異なってきます。

 実際に劇場で感じる感覚は当てにならないのです。というわけで、数字にあたってみましょう。直近の、シネマシティにご来場いただいたお客様の年代構成を見てみますと、ざっくりですが以下の通りです。

・0歳 - 大学生:25%
・20代:23%
・30代:15%
・40代:13%
・50代:10%
・60代:7%
・70代以上:3%

 足しても100になりませんので、あしからず。また大学生には10代ではない方も多く含まれています。これでわかるのは、映画館の最大ボリューム層はやはり今も20代だということです。大学生の区分に含まれている20代を足せば、なお増えますし。20代人口比率は低下し続けているにも関わらず、この数字であるということは、20年、30年前はもっとそうだったということです。

 もちろん「これはシネマシティという特殊な映画館の場合ではないか」という疑問もあるかと思います。それはその通りでしょう。まず第一に、23区からは遠く離れているとはいえ、立川は一応東京都内であるということ。また様々な企画や上映設備、予約および料金のシステムなどにより、通常の映画館の商圏では考えられない広い地域からの集客ができていること。わざわざ遠方まで足を運んででも高いクオリティで作品を鑑賞したいと考える熱情を持っているのは20代が多いだろう、というのは確実にあると思います。新幹線や飛行機代、宿泊費を払ってでも観たい、というのは少し経済的に余裕ができてくる30代に多いかも知れません。

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