小栗旬というスターの顔が剥がされた? 「太宰治」という特異な役を成立させた“笑い”という武器

小栗旬が手にした“笑い”という武器

 いやあ、面白かった。

 のっけから、主人公の太宰治(小栗旬)は“面白い人”として描かれていた(以下ネタバレあります)。蜷川実花が太宰治の映画を撮ると知ったとき、太宰治のデカダンスが、さぞ美しく描かれるだろうと想像していたが、いい意味ではぐらかされっぱなしだった。

 太宰治が「人間失格」を書くまでの物語で、人気作家・太宰は、三人の子をなした妻・津島美知子(宮沢りえ)の庇護の元、小説のネタのために太田静子(沢尻エリカ)と恋愛しヒット作「斜陽」を書き、次に手を出した山崎富栄(二階堂ふみ)とも恋のスリルを楽しんでいた。が、病魔が彼を蝕んでいく。三人の女たちとの均衡の崩壊、死の予感を感じながら「人間失格」執筆に取り掛かる。

 こう書くと、孤独で創作のために己のすべてを捧げたかっこいい話に思えるが、小説のためと言いながら、「死ぬ死ぬ」詐欺の死に損ない。それが『人間失格 太宰治と3人の女たち』の太宰治。思わずぷぷっとなる箇所が満載なのだ。

 最高だったのは、太宰が静子の日記を使った「斜陽」がバカ売れして大作家になったとき、成田凌演じる担当編集者に街なかで詰めよられ、合わせて祭りの喧騒に煽られて神輿に乗るみたいに感情が沸騰していくところ。つい『モテキ』(大根仁監督)で主人公・幸世(森山未来)が女神輿に乗って浮かれている場面を思い出してしまった。さすがに太宰はもっと悲壮だけれど、根本的には同じ。理性じゃないところで動いちゃうのねえ……という感じ。

 日本人の心・庶民の誇りたる祭りを、蜷川実花は太宰治を追い込んでいく大衆の無自覚な怖さとして描いているようでそれもまた面白かった。

 祭りのあとは無数の風車と子ども。子どもたちに嗤われる太宰。そこへ山崎富栄が子犬のように寄ってくる。二階堂ふみの太宰が好き過ぎて尽くしすぎてやばい女はパーフェクト。彼女のせいで太宰は徹底的に追い詰められていく。


 太宰を巡る三人の女がそれぞれ最強。

 頭のあがらない妻を宮沢りえが圧倒的な母性で演じている。演技対決では群を抜いている。沢尻エリカは相手に尽くすというよりは自分の名誉や信念を大事にしている凛としたところがさすが。とにかく誇り高く美しい女王のよう。二階堂ふみは前述したとおりメンヘラ性奴隷的な女子を完璧に演じた。小柄なところも嗜虐性をくすぐるのだ。そんな三者三様の女性を振り回し、小説に取り入れているようで、実のところ振り回されている太宰治がとことんかっこ悪い。太宰治ってこんなにかっこ悪いのか(小栗旬のことではありません)。最後の最後に多額の税金のお知らせを見てめそめそ泣くところで爆笑してしまった。小栗旬、究極のめそめそ男子。

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